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●書籍化&コミカライズ化決定【SSS級スキル配布神官の辺境セカンドライフ】~左遷先の村人たちに愛されながら最高の村をつくります!~  作者: 天池のぞむ
第1章 左遷された神官は伝説を始める

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第18話 【SIDE:王都教会】露見


「ややっ、お待ちしておりました! 本日は足をお運びいただき誠にありがとうございます!」


 王都教会の特別応接室にて。

 ゴルベールは高速の揉み手でもって一人の男を出迎えていた。


 その男は大柄で髭を生やしており、「貴族衣装を身に纏った熊」とでも形容するのが相応しいだろうか。

 隻腕(せきわん)でありながらも、貫禄は常人のそれとは明らかに異なる。


「ささっ、どうぞこちらへ。バルガス公――」

「ガッハッハ。お出迎えには感謝するが、そんなにかしこまらなくていいぜ、大司教さんよ」

「そ、そういうわけには……」


 バルガスと呼ばれた男が応接室の入り口で気さくに応じるが、ゴルベールは揉み手を止めることなく笑顔を貼り付かせていた。


 バルガス公爵――。


 十数年前、王都近郊に現れたモンスターの大群を撃退した武功からも、その名を知らぬ者はいない。

 リドが王都から左遷される直前、自身の屋敷へと招いた人物でもある。


 ゴルベールにとって今日の面談の目的は、リドの後継として顔合わせをするに留まらず、このバルガス公爵の信頼を得ること。そして、近日中に迫っている王家の監査に手を回してもらうよう取り入ることだった。


「お父様、入り口に突っ立っておられては(わたくし)が入れませんわ」

「おっと。すまねえな、エレナちゃん」


 バルガスの背後から凛とした声が発せられ、金髪の少女が現れる。


 後ろで二つに分けた金の髪は見事なまでに均整が取れた巻き毛で、整った目鼻立ちは人形か何かと見紛うほどだ。

 バルガスを質実剛健と表すなら、エレナは容姿端麗といったところか。


 巨漢のバルガスと並ぶとその体格差は明らかだったが、吊り目がちの赤い瞳からは意思の強さが感じられる。


「娘のエレナだ。めちゃくちゃ別嬪だろう?」

「は、はい。仰る通りですね……」

「事前に通達しておいた通り、同席させたいんだが。構わんかな?」

「もちろんでございます。さあ、エレナ嬢もこちらへ」


 エレナは隙の無い所作で軽く頭を下げた後、父バルガスと一緒に席へと向かう。


「さて、と……」


 ゴルベールが秘書に茶を用意させる一方で、バルガスは用意された椅子にどっかと腰掛けると、一つ大きく息を吐き出した。


「それじゃあ大司教さん、オレは堅苦しいのが性に合わないタチでね。早速本題に入らせてもらうとしよう」

「は、はい……?」


 始めは和やかに雑談でも挟もうかと思っていたゴルベールが、バルガスの言葉に姿勢を正す。


「まず、エレナの前任を担当してくれてたリド神官についてだ」

「リド……。リド・ヘイワースでございますか? もしや、奴めが何か粗相を?」

「とんでもねえ。オレも天授の儀を行う時に同席していたんだが、ありゃあ素晴らしかった」

「す、素晴らしかった? リド・ヘイワースの行った天授の儀が、ですか?」


 ゴルベールは思わずバルガスの言葉を繰り返し、怪訝な表情を浮かべる。


 一応、ゴルベールは今日の面談においてどのような話が出てくるか予想をしていた。


 事前のリドの話によれば、天授の儀の結果についてエレナは満足しているということだったが、それはリドの妄言であろうというのが九割。残りの一割ほどで、エレナがリドに入れ込んでいて色眼鏡を通した評価となった、という状況を想定していたのだ。


 いずれにせよ、バルガスまでもがリドを絶賛するというのは予想外だった。


「し、しかしバルガス公。大変失礼ながら、ご令嬢は天授の儀の後でスキルを試したところ、スライムに苦戦なされたと聞いておりますが……」

「あん? そりゃあそうだろう。スキル授与を受けたばっかりの時は『レベル1』なんだから」


 バルガスから発せられた言葉に、ゴルベールはますます眉をひそめる。

 「レベル1」というのは何なのだ、と。


 リドがエレナに【レベルアッパー】という意味不明なスキルを授けたことをゴルベールは聞き及んでいる。

 しかしその際に語られた説明は、リドが左遷を撤回させようとして捏造したものだと決めつけていたため、すぐに「レベル」という言葉の意味を思い起こすことができない。


 (レベル……。確かリド・ヘイワースの奴が私に手渡した報告書にも、記載があったような……)


「しかし、エレナもあれからモンスターを討伐して強くなってな。ワイバーンも一人で倒せるようになった」

「わ、ワイバーンをお一人で!?」

「ああ。強くて可愛いってんだから凄えよな。さすがオレの娘だ。ガハハハハ!」


 ワイバーンと言えば、熟練の冒険者でも単独で討伐することが難しいとされるモンスターだ。

 それをバルガスは、隣にいる可憐な少女が倒したのだと言う。


 当のエレナは特に表情を変えるでもなく、澄ました顔で紅茶に口を付けていた。


「まあ、それもリド神官から授かったスキルのおかげだ。今じゃエレナは『レベル70』になったからな」


 (だからレベルというのは何なのだ……!?)


 ゴルベールは思わず叫びそうになった。

 もちろん言葉には出せず、代わりに引きつった笑顔で応じるしかない。


「で、だ。リド神官の後任で指南を務めてくれるっていう大司教さんに聞きたいんだよ」

「は、はい……。何をでしょうか?」

「エレナは今、レベル100になることを目指している。そのためには今後どんなことを意識していったら良いかな?」

「ええと……、それは……」


 ゴルベールに分かるはずがなかった。


 実は、リドがゴルベールに引き継ぎとして残していった報告書にはその答えが書いてある。

 しかし、ゴルベールはその報告書を渡された当日の内に屑篭へと放り込んでいたのだ。


 答えに窮したゴルベールを見て、バルガスの眼光が鋭いものへと変わる。

 今までの陽気な口調とは一転して、バルガスは冷たく言い放った。


「やっぱりな。アンタにゃ何も分からないらしい。そんなんでエレナの後任に就くとか、よく言えたもんだ」

「っ……! お、お待ち下さい! 私はリド・ヘイワースに引き継ぎを命じていたのですが、奴はまともな報告すらしていなかったのです! ですから――」

「はいはい」


 ゴルベールが咄嗟に吐いた虚言を見越していたかのように、バルガスは懐から束になった羊皮紙を取り出して卓に放った。


「こ、これは……」

「私のスキルに関する説明書ですわ」


 答えたのは、それまで黙していたエレナだった。


「騙すような真似をして申し訳ありませんが、先ほど父が言ったレベル100になる方法というのは既に分かっております。ししょ――コホン。リドさんの残していって下さった、この説明書に全部書いてありますから」

「リド神官がな、左遷された土地へ行く前に挨拶しに来てくれたんだよ。指南ができなくなって申し訳ないって言ってな。この説明書はその時、念の為にと言って残してくれたもんだ」

「や、奴がそのようなことを……」

「ししょ――リドさんは、私だけでなく自分の担当した全ての人に挨拶してから左遷先に行くと仰ってましたわ。上司であるゴルベール大司教に報告書を渡してある、とも」

「……!」


 ゴルベールはエレナが言ったその言葉に目を見開く。

 つまり、先程の引き継ぎを受けていないという嘘がバレていると、そういうことだ。


 バルガスは卓上に置いた羊皮紙の束を再び懐に収め、ゴルベールを冷ややかな目で見つめた。


「アンタ、どうせロクに目も通してねえんだろう。あれだけの神官に左遷を命じるくらいだからな。ったく、どれだけ彼が虐げられていたか分かるってもんだぜ」

「そ、それは……」

「ま、次からは目を通しておいた方が良いと思うぜ。ウチの領民からも王都教会に対して抗議文書が送られてるって話だしな」

「バルガス公の領民から、抗議文書……」


 ゴルベールはハッとして口を手で抑える。

 そういえば、そんなものが教会宛に届いていた。


 (マズい……。マズいマズいマズい……!)


 あれはバルガス公爵の領民たちが差し出したものだったのだ。

 貴族でないなら大事にはなるまい、いずれほとぼりは冷めるだろうと放置していたが、状況を知った今、そんなことができるはずもない。

 領民の不平不満となれば領主であるバルガスに筒抜けになるからだ。


 リドが残していった報告書も必要だ。

 まさか屑篭に放り込みましたなどと、バルガスに言えるはずがない。


「では、これで失礼するとしよう。当然だがエレナの後任の件は考えさせてもらう。ウチの領民たちについても同じようなことが繰り返されるなら、その時は――。と、まあそれはいいか」

「……」


 やはり、報告書がいる――。

 

 席を立ったバルガスとエレナに視線をやることすらできず、ゴルベールの頭を埋め尽くすのはその一念だけだ。

 既に数日が経っているのだから、教会の中には無いだろう。一刻も早くその行方を追って回収せねばならないと、ゴルベールは冷や汗を流すばかりだ。


 王家の監査に手を回してほしいなどと、切り出せるはずがなかった。


   ***


「さて、と。やっぱりありゃあ単なる阿呆だったな」

「まったく、お父様ったら。後任の件は考えるだなんて。私はししょ――リドさん以外の方に指南を仰ぐなんて御免ですからね」

「ああ言っておかないとウチの領民も蔑ろにされそうだからなぁ。まあ、そろそろ見切りを付けても良いとは思うが」


 王都教会を出て、バルガスとエレナはそんな言葉を交わしながら歩いていた。


「とにかく今は、ししょ――コホン。リドさんを左遷しやがったあのクソゴミ大司教よりも、優先すべきことがあるでしょう?」

「エレナちゃんよ、レディがそういう汚い言葉を使うのはお父さんどうかと思うぞ……。が、まあそうだな。最近ウチの領地を荒らしてるモンスターの件。それをどうにかしねえとなぁ」

「モンスターくらい、私がどうにかしてみせますわ」

「と言っても、さすがにエレナちゃん一人でってのもな……。と、そうだ」


 バルガスが何かを思い付いたように顔を上げる。

 そして、隣にいたエレナの方を見やると、ニカッと笑って問いかけた。


「リド君の左遷先、ラストアだっていう話だよな?」

「……? ええ、そう聞いておりますが?」

「彼に救援を求めるってのはどうよ? そうすりゃエレナちゃんもリド君に会えるし、一石にちょ――」

「分かりました。私がすぐに行ってきます」

「早っ」


 バルガスの提案にピシャリと即答し、エレナはリドのいるラストアの地へと向かうことを決める。


 エレナは落ち着いた態度で父の言葉に応じたが、その胸の中は喜びと嬉しさに満ち溢れていた。


 (やりましたわ……! 師匠に、師匠に会える……!)



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― 新着の感想 ―
[気になる点] 他の物語の中で、彼らの世界ではテレビや新聞すら知らない悪役と比べて、ゴルベールは比較的賢いと言えるでしょう。
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