76.ヨハネス(司書)
彼女の目が好きだ。理知的で、その奥に詰まった知識の深さがうかがい知れる。
彼女の声が好きだ。普段は落ち着いてやや低め、耳触りが心地よい。探していた本を見つけたとき、少し上ずって早口になるのもいい。
彼女の横顔を見るのが好きだ。本に没頭して周りが目に入っていないとき、僕はひっそりと彼女を見つめる。彼女は気配に敏感だから、本を読んでいるとき以外は見られない。
彼女の髪が好きだ。サラサラで手触りがよさそうなのに、いつもひとつにまとめている。本に没頭しているとき、おくれ毛がはらりと落ちると、うっとうしそうに後ろに撫でつけるしぐさも好きだ。
そっと見てるだけで幸せだったのに、一枚の紙が僕の心をかき乱す。
「チュウニビョウ検定に合格した方に、ディートリッヒ様の伴侶の座を差し上げます。ただし、本人の同意があった場合のみ。エリザベート」
こんな訳の分からない紙が、ある日僕の机の上に置いてあった。その日からソワソワ落ち着かない。どうしよう、受けてみたいような、怖いような。
「これ、貸し出し処理お願いします」
「……はい、かしこまりました。……あの、ディートリッヒ様、実は希少本を手に入れまして。閉架書庫に入れる前にもしよければと思って……」
「……こ、これは……。各国の法律が成り立ちから各変遷まで詳細に記載されていて法律家たちの間で閲覧が渇望されているという幻の書ではないですか。書店や市でごくまれに流通するという噂もあるがほとんどは偽物。本物を読んだことがあるのは両手の指で足りるともささやかれている。なんということかこれだけで屋敷が五つは建てられるほど価値があると聞く。まさかまさかこれを読める機会が私にくるなんて神よ感謝します」
「あ、あの、ディートリッヒ様、ここで五体投地は……。服が汚れますよ」
「ヨハネス様、誠にかたじけない。いつも貴殿には希少本を貸していただいて、なんとお礼を申し上げればよいのか。私にできることがあれば、なんなりとお申し付けいただきたい」
「……あの、実は、その……。チュウニビョウ検定を受けたいです!」
「……パブの野郎。あいつ一体どこまで手を伸ばしてやがる……。分かりました、しばしお待ちを。これ、エリー様がパフィリア様に託していかれたらしいんですよ。私には意味が分からないのだが……。では読み上げます」
チュウニビョウ検定。
第一問。山積みの仕事が終わったときになんと言いますか?
1.おつかれ、俺たち。
2.やれやれだぜ。
3.お疲れルンバ。
第二問。「貴様のために、何人の人間が死んだと思っているんだ?」に対する答えは?
1.お前は今まで食ったパンの枚数を覚えているのか?
2.あまり強い言葉を遣うなよ。弱く見えるぞ。
3.聞きたいかね? 昨日までの時点では9万9882人。
第三問。あなたが楽しみにしていたケーキに蟻がたかっていました。なんと言いますか?
1.駆逐してやる!! この世から、一匹残らず!!
2.この眼は闇がよく見える。
3.オレは花も木も虫も動物も好きなんだよ。嫌いなのは人間だけだ。
「……ぜ、全問正解だと!? バカな、今まで誰一人として正解できなかったのに、なぜ……」
「あああああああのーー、ぼぼぼ、僕と結婚してください!」
「いいですよ。ヨハネス様となら。これからよろしくお願いします」
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