3.エルンスト様
ようこそいらっしゃいませ、エルンスト様。殿方がいらっしゃるなんて想定外で、うろたえてしまいましたわ。申し遅れましたが、わたくしエリザベートですわ。
ええ、つい先ほどレオノーラ様からご連絡いただいたところですのよ。お元気でいらっしゃるようで何よりですわ。すっかりニ次創作へのご旅行がお気に召したようで、よろしゅうございましたこと。
お飲み物はウィスキーがよろしいかしら? ジンやビールもございますわ。ビールですね、ではヴルストもどうぞ。わたくしの故郷ではソーセージとも呼ばれております。ピリッとしたゼンフをつけると、よりビールに合いますのよ。ほほほ、暑い時はビールとヴルストに限りますわね。
ええーっと、エルンスト様の婚約者のアイリーン様についてでしたわね。なんでもアイリーン様がいきなり豹変し、悪役令嬢やヒロイン、攻略対象などの用語を呟くようになられた、と。
ほうほう、なるほど。それをエルンスト様はきっちり聞き取られたものの、アイリーン様にはお尋ねになっていないと。
ふふふ、初期ではないですか。いえ、ひとりごとですわ。
それで、エルンスト様は第二王子でいらっしゃるのですね? 失礼ですが、第一王子はどのような?ああ、なるほどですねー、アホの子と。
え、あほのこってどういう意味か?
まあぁぁ、ダメですわ、エルンスト様。乙女のひとりごとはそっと聞き耳を立てるのみ、決して聞き返してはいけませんことよ。ヤボですわ、ヤ・ボ。
あら、イラッとさせてしまいましたわ。いけませんわ、殿方だとどうもペースが狂いますわね。んんっ、もとい。そうですわね、国王陛下と王弟殿下はどういった? ああ、彼方に行きかけの王と、有能で民から慕われる王弟ということですね。
ほーん。
ところで、エルンスト様はアイリーン様との婚約はどうされるおつもりですか。婚約解消を考えていらっしゃったりなどは?
以前は傲慢で鼻持ちならぬ女だと思っていたけれども、最近はおもしろさが勝ってきたと。ふむ。
エルンスト様、二つの案をご提示いたしますわ。
一つ目、アイリーン様の挙動不審を生温かく見守り、適宜助けてあげてくださいませ。例えば、アイリーン様が突然料理に目覚めたり、治水事業や孤児院の改善などを始めたり。そのようなことがあったら、そっと現実的な方向に軌道修正しつつアイリーン様を支えていただきたいですわ。そうすれば国が栄えますし、エルンスト様もアイリーン様も幸せになれる確率が高まります。
二つ目、アイリーン様と添い遂げるご覚悟がないのであれば、なるべく早く婚約解消をすることをおすすめしますわ。後になればなるほど、不幸になる人が増えます。婚約破棄ではなく、円満に解消することが重要ですわ。
そして、どちらの道を選んだとしても、いつかきっと、雷に打たれたかのような衝撃的な出会いがあることでしょう。そう、運命の人との。アイリーン様と運命の人を同時に得ることはできませんわ。
岐路に立たれたとき、エルンスト様かアイリーン様には、ぜひわたくしの存在を思い出していただきたいのです。そしていつでもこちらにいらしてくださいな。お二人揃ってでもいいですし、どちらかお一人でも構いませんわ。
婚約破棄をしてやるーっと思い詰める前に、わたくしエリザベートの顔が思い浮かぶよう、ささやかなおマジナイをかけさせていただきますね。
せいやっ
それでは、エルンスト様、フォースが共にあらんことを。