11．フェリシア様
ようこそいらっしゃいませ、フェリシア様。エリザベートですわ。
ええ、マリエッタ様からお話しは伺っておりますわ。ふふふ、たこ焼きを気のすむまで召し上がりたいと。準備は万端ですわよ。さあ、タコパをいたしましょう。
ほほほ、練習しましたのよ。ご覧になって、わたくしの華麗なるピックさばきを！
フェリシア様も挑戦なさいます？ ええ、そうですわ、そこをクルッと、あああーーー……いえ、問題ございませんわ。そうそう、お上手ですわ、今です、今、ひいいぃぃぃーーー……
気を落とされないで、最初からうまくいったら面白くないではありませんか。難しいからこそ、燃えるのですわ。ね、カタチが多少いびつでも、おいしければそれが正義ですわ。
はふっはふっ、ふふふ楽しいですわね。
いかがかしら、堪能できましたか？ それはよろしゅうございましたわ。
まあ、フェリシア様の秘密ですか？ 分かりましたわ、秘密は墓場まで持っていきますわ。
ええ、ええ？ フェリシア様は、ふ……。負？ 麩？ 腑？
ふふふふふじょ
ああ、分かりましたわ。腐、ですわね。
ええ、どうしてですの？ 何も恥ずかしがることはございませんわ。何をどのように好きになろうが、そんなものは個人の自由ですわ。人の数だけ偏愛がございますわ、素晴らしいことですわ。
そう、それで？ 腐教をなさりたいの？ ああ、そこまで大規模ではなく……気の合う少人数でひっそり腐活動を……。いいではありませんか、ぜひ楽しんでくださいな。
ああ、どうやって腐友を作ればいいか分からないのですね。そうですわねー、確かに難問ですわね。どうしたらいいのかしら、前世であれば学校に腐友の会がございましたわよね。それに匿名で語り合える場所も。
フェリシア様の世界ではまだ腐の概念が広まっておりませんわよね？その場合、同好の士を探るために匂わせたところで、誰もひっかからないでしょうね。
まずは概念を広めるところからですわね。それで、鑑賞対象はいらっしゃるの？ まあ、婚約者の第二王子と騎士団長ですの？ ああ、騎士団長にしごかれる第二王子が大好物と。
なるほどなるほど。第二王子と騎士団長は女性から人気がありますかしら？ ほうほう、第二王子は優しいお顔立ちでスラリとしているのに適度な筋肉が素敵。騎士団長は鍛えられた肉体とやや険しいお顔ながら、たまに見せる笑顔がギャップ萌えと。
ふむふむ、最高の素材ですわね。いけますわ。いける匂いがいたしますわ。
フェリシア様、本を書きましょう。ええ、フェリシア様が自ら書くのですわ。第二王子と騎士団長を間近で観察できるのは、フェリシア様ではありませんか。フェリシア様が心が躍る光景を、文章にするのです。もちろん、名前や地位は変えてくださいませね。
本が書けたら、次は小さな本屋を買い上げてくださいな。ええ、もちろん秘密裏にですわ。決してフェリシア様の名前が表に出ないように慎重に。そこにひっそりと冊子を置くのです。無料の冊子ですわ。麗しい殿方二人の挿絵をつけましょう。ええ、二人の距離が近すぎるのはご法度ですわ。あくまでも、そこはかとなくですわ。
挿絵とちょーっとした触りの文章と本の題名、そして、ご興味があれば店主まで、という一文を下の方に小さく入れるのですわ。
購入者をきっちり把握してくださいませね。ええ、公爵家の影をお使いになって。そう、あくまでも知るだけです。決して声をかけてはなりません。
購入者を確認したら、舞踏会などでひっそりと接触なさって。細心の注意が必要ですわ、怯える子猫ちゃんたちですもの。
どのように声をかければいいか分からない？ 確かに確かに。ふーむふむふむ。
そうですわ、本の内容に小物を仕込みましょう。例えばそうですわねー、騎士団長が怪我したときに、第二王子がハンカチで血をぬぐってあげるのですわ。そのハンカチには王家の紋章が入っているのです。もちろん架空の紋章ですわ、青い薔薇などがよろしいかしら？
宿舎に戻ってじっとハンカチを見つめる騎士団長。綺麗に洗ったハンカチを、胸ポケットにこっそり入れるのですわ。もえますわ。
本の表紙にその青い薔薇の紋章を入れればよろしいわ。そして、購入者には青い紋章入りのハンカチをオマケで差し上げるのです。
さあ、もうお分かりになられたでしょう？ そう、そうですわ。ええ、ええ、その通りですわよ。舞踏会で購入者に近づき、自然な流れでハンカチをお使いになればよろしいわ。目と目が合えば、オズオズとお茶会に誘えば完璧ですわ。
ふふふふ、フェリシア様、これからお忙しくなりますわね。
ご成功を心からお祈りしておりますわ。
