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アイスを食べよう!

「暑いよー。暑いよー」

「だから言っただろ」

「帰ろうよ。梓真」

「こんなに早く帰ったら、母さんになんて言われるか」


『あんたの態度が悪いせいで、冬真君がお出かけ楽しめなかったじゃない!!』

とか言って、理不尽に怒る母さんが目に浮かぶ。

「えー。もうしょうがないな。もう少しだけ付き合ってあげるよ」

……だめだ。暑すぎて怒る気にもならない。


「……あー。やっと着いた」

暑いというだけで、徒歩10分の道のりがとてつもなく長く感じる。この現象に名前をつけたい。

「梓真ー。着いたし帰ろうよー」

「だめだ。後20分は時間を潰さないと」

「えー。暑いよー。早く帰ろうよー」


「……あれ。梓真?」

聞き馴染みのある声に振り返ると、幼稚園からの幼馴染で。照れ臭いけど、俺のたった一人の親友の琉生(るい)がいた。


「久しぶりだな」

「あ、うん。久しぶり!」

「中学の友達と遊びにきたのか?」

「いや。中学違うし……。友達でもない」

「ん?じゃあどうゆう関係?」

「えーと」

俺とこいつの関係ってなんて言えばいいんだ?

一から説明すると長くなるし。


「一応、弟?」

なんだか癪に障るけど、それ以外に適切な表現もない気がした。

「あー。愛人の子的な?」

「いや。そういうんじゃないんだけど」

「じゃあ、どういうの?」

「話せば長くなるんだけど」

「じゃあ、いいや」

相変わらずマイペースだな。


「なんか弟くんに見覚えある気がするんだけど」

「あー。見覚えはあると思うよ」

最近ニュースとかでよく出てるしな。

「あ、思い出した!笑顔がうさんくさいフィギュアスケーター!」

「……梓真。誰こいつ」

「同じ小学校だった……。と、友達」

友達って言葉にするとなんか照れるな。

「ふーん」


琉生(るい)は一人で来たの?」

「そうだよ」

「公園で一人でなにしてたんだよ」

「シャボン玉してた」

「シャボン玉!?」

「うん。意外と綺麗だよな」

そう言って琉生は、シャボン玉を吹いた。

たしかに綺麗だ。

俺もやりたくなってきたかも。


「ぷぷ。もう中学生なのにまだシャボン玉なんて子どもみたいなことしてるの?」

「人が楽しんでること馬鹿にするやつの方がよっぽどガキだよ」

「はあ!?バカになんてしてないし!僕はただ一般論を述べてるだけ!」

「余計なお世話だ。

それに中学生はまだまだ子どもだぞ。今のうちに大人になったらやり辛いことやっとかないと、大人になってから後悔したって遅いんだぞ」

「はあ?そっちこそ余計なお世話なんだけど。もういいや。梓真。帰ろう」

「だめだ。後15分は時間を潰さないと」


「ん。なんで?愛人が家に来てんの?」

「だから愛人の子どもじゃないって」

「じゃあなんで?」

「……母さんが」

「ああ。お前の母さん理不尽モンペだもんな。いちいち気遣って大変だな」

「まあうん。大変」

「あれ。でも俺が悪いからって言うのやめたの?」

「うん。やめた」

「なにがきっかけ?」


きっかけ……。きっかけはこいつかも。

取り違えがわからなかったら、俺は後何年も……。下手したら死ぬまで、自分を責めて生きていたと思う。

それに。


『なんで庇うの?』

『別に庇ってる訳じゃ……』

『庇ってるよ。嫌いなんでしょ?なら、庇っちゃダメだよ』


あの言葉にも考えさせられた。

こいつの言動は極論すぎるけど、間違ってはいないことが多い。

でもこいつのおかげとか言うと、絶対に調子に乗るからはぐらかそう。


「……きっかけとかは別にないけど」

「ふーん。まあ良かったじゃん。梓真のせいじゃないって気付けて」

「うん。良かった」


「俺今からアイス買いに行くけど、お前らどうする?」

俺は行きたいけど……。

さっき喧嘩してたし、こいつは行きたくないかもな……。


「どうする?」

「……行く」

「じゃあ、裏のスーパー行くか」

公園のすぐ近くにあるスーパーに、3人で向かった。



「涼しいー。生き返るー」

スーパーに入るなり、あいつが……。冬真が言った。

でも確かに生き返る。

もう二度と外に出たくない。


「スーパーってこんなに色んな物売ってるんだ!これじゃアイス探すのも一苦労だね!」

冬真が言った。

「アイス売り場はあっちだけど。なにスーパー来たことないの?」

琉生が言った。

「すごく小さい時にはあったかもだけど、物心ついてからは初めて」

「箱入り息子なんだな」

「箱入りっていうより、監獄入りだけどね。さっさとアイス買おうよー」

冬真がアイス売り場へと歩いていった。


俺と違って両親に愛されて育って羨ましいと思っていたけど、冬真は冬真で大変だったのかもな。

そらそうか。うちの母さんの理不尽も大概だけど、冬真のお母さんも凄そうだったもんな。


それに天才フィギュアスケーター。未来の金メダル候補なんて言われて過ごす気持ちなんて、俺には想像もつかない。

俺ももう少し、冬真に優しくするべきなのかな。


『梓真の育てのお母さんに、梓真がいじめてくるーって泣きつこうか?』

『男子のベッドの下には必ずエロ本があるって、コーチが言ってた』

『梓真……。漫画じゃないんだから、そんな物本当にある訳ないでしょ』


いや。やっぱり止めとこう。

冷たくしてるのにこの有様だ。

優しくなんてしたらどうなることか。


アイス売り場に着くと、冬真が既にアイスを手にしていた。

「僕はこれのチョコにする!」

中学生がそのアイスって。やっぱりお金持ちは違うな。


「俺はパ●コにするわ。1人だと多いから、梓真半分こしようぜ」

「うん。わかった」

なんかパ●コを半分こするのって、青春ぽくていいよな。


「……アイスを半分こって、どういうこと?」

「パ●コは2本入りなんだよ」

「……僕が梓真と半分こする」

「え。じゃあ琉生とわけろよ。俺、別のアイス買うから」

別にアイスなら、なんでも好きだしな。

「やだ!僕が梓真と半分こするの!」

「はあ?」

なんだこいつ面倒臭い。


「お前。メンヘラ彼女みたいだな」

「彼女じゃないし。弟だし」

「メンヘラはいいのかよ」


「しょうがないな。こうなったら俺と梓真。弟と梓真でそれぞれ半分こするしかないな」

「ええ……。なにその無駄な行為」

「嫌なら説得しろよ。お兄ちゃんだろ」

「……良いよ。それで」

正直腑に落ちないけど、こいつを説得する以上に面倒臭いことはない。


お会計を済ませ、公園に戻った。

買ったパ●コの半分を冬真に渡し、琉生から受け取るという。なんの意味もない行為が行われた。


パ●コを一口食べた。

久しぶりに食べたけど美味しいな。


ふと冬真の方を見ると、パ●コを持ったままフリーズしていた。

「食べないのか?」

「た、食べるよ!食べるけど……」

どうしたんだ?


「ああ。開け方分かんねーのか。このリングを引き上げるんだよ」

琉生が言った。

「はあ?それくらい見たら分かるんですけど!」

冬真はパ●コを開けた後、パ●コを1度揉んでまた動かなくなった。

「今度はどうしたんだよ?」

「あ、梓真……。このアイス。アイスなのにシャリシャリしてるよ?」

「そらシャーベットだからな」

「シャーベットってなに?アイスと違うの?」

「うーん。詳しくはわかんないけど、シャリシャリしてたらシャーベットだと思う」

そういえば何が違うんだろう。帰ったら調べてみよう。

「ふーん」

恐る恐るといった感じで、冬真はパ●コを一口食べた。


「あれ。美味しい」

あっという間に完食した。

「もう無くなっちゃった」

冬真は悲しそうに空になったパ●コを見つめていた。

「もう1本食べるか?」

俺は正直、1本食べたら十分だ。


冬真は凄く迷った後

「いい!あいつの施しは受けない!!」

と言った。

しかしそう言った後も、物欲しそうにパ●コを見つめている。

そんなに食べたいなら食べたらいいのに。

変なところで頑固なんだな。




「じゃあ俺、そろそろ帰るわ」

「あ、またね!」

「うん。弟くんもまたな」

「二度とその顔見せるな」

「じゃあ次は仮面して会いにくるよ。またな」

「二度と来るなー!!」

なんか威嚇してる猫みたいだな。


そういえばもう一本のパ●コどうしよ。

家に帰ってから食べるか。

……………父さんにあげようかな。

今朝のパンケーキすごく美味しかったし、お礼って訳じゃないけど。

………でも溶けちゃうか。

いやでも。パ●コなら凍らせ直したら。

……とりあえず持って帰って、考えるか。


「じゃあ俺たちも帰るか」

「あ、梓真……」

「なんだよ」

「…………僕も……シャボン玉してみたい」

「……したことないの?」

「……ない」


まじか。……まさかフィギュア以外のことなにもさせてもらえなかったとかはないよな?

あの母親なら、無きにしも非ずな気も……。


「わかった。しよう」

「本当!?」

「……うん」

めっちゃ喜んでる。

「シャボン玉ってどこで売ってるのかな?」

「あるか分かんないけど、さっきのスーパーの二階見てみるか」

「スーパーは食べ物買いに行くとこだよ?梓真そんなことも知らないの?」

「……あのスーパーの二階は日用品とかが売ってるんだよ。ちょっとしたおもちゃとかも置いてたから、シャボン玉もあるかも」

「すご!ショッピングモールじゃん!」

「そこまでではないけど……」

「早く行こ!」

冬真が俺の腕を引っ張って走り出した。

「おい!引っ張るな!」

俺の言葉を無視して、冬真は走った。


なんか弟というより、言うこときかない犬を散歩させてるみたいだなと思った。


結局、スーパーにシャボン玉は売ってなかった。二階をほぼ一周したせいで、結構疲れた。最初から店員さんに聞けばよかったんだろうけど、中学生にもなって『シャボン玉ありますか?』と聞くのはハードルが高い。


「無かったし。今日は帰るか」

「えー。やだ!やだ!梓真の嘘つき」

「しょうがないだろ。売ってないんだから」

「やだー!他の店に買いに行こうよ!」

「だめだ。遅くなったら遅くなったで母さんがうるさい」

「やだー!絶対今日、シャボン玉するの!」

たまにスーパーで駄々こねてる子ども見るけど、その子のお母さんはこういう気持ちなんだな……。

そういえば俺も子どもの頃は、わがまま言ってたな。

あの時の母さんは笑って許してくれたっけ。

いつからだろう。母さんに何も言えなくなったのは。


「梓真。どうしたの?」

「え、いや。なんでもない。ちょっとぼーっとしてただけ」

「そっか。シャボン玉買いに行こう」

「……はぁ。わかったよ」

「やったー!梓真。大好き!」

こいつのわがままを止めれる人間は、地球上にいない気がする。


「そうと決まればさっさと行こう!善は急げだよ!」

「……わかったよ」


こうして俺たちは、徒歩15分の100円ショップに来た。

「わー!物がたくさんあるね!」

「……100均も初めてなの?」

「初めてだよ!すごいね!100円に価値はあったんだね!」

「小銭をなんだと思ってたんだよ。シャボン玉だけ買ってさっさと帰るぞ」

「えー。やだー。色々見たいよー」

「だめだ」

「えー。お願いー」

「だめだ」

「お願いー。お願いー」

「だめだ」

これでも言うなら、置いて帰ろう。

「うぅ。わかったよ」

……こいつしつこいくせに、引き際は分かってるんだよな。

……でもそんなに悲しそうな顔されたら。

「……わかったよ。今度また連れてくるから」

「本当!?絶対だよ!約束だよ!」

「うん」

「じゃあ、指切りしよう!」

「指切りって……。小学生じゃないんだから」

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