9.(モニカ視点)
ネピア王国王立貴族学園。私がこの学園に入学したのは2年前……、数少ない『平民枠』での入学だったわ。貴族学園と言っても、ここ数年で有力な商人の子女なんかの平民も受け入れるようになった。私のお父様は城下町で一番の商会を率いているから、私は平民枠で入学が許可されたっていうわけ。
この学園に私みたいな平民の娘が入学する理由は……、貴族との関係を築いて、花嫁修業として箔をつけること・そして、あわよくば貴族の恋人を作って、卒業後に結婚すること。
お父様は「侯爵以上の貴族なら、妾でも良いぞ」なんて言って、私を学園に送り出した。
でも、私は妾なんて絶対嫌だった。
やっぱり、一番に大事にされて、一番に愛されたいじゃない……好きな人に。
そして、入学してすぐ、私は恋をした。――この国の王太子様、ネイサン様に。
ネイサン様は身分関係なく誰にでも分け隔てなく接してくれる人だった。
入学してみれば、平民枠は貴族たちとは授業はほとんど別で、交流する場と言えば、学期ごとの学校主催のパーティーくらい。
私たち商人の娘は、パーティーの時はすっごく着飾って準備したわ。私たちには遊び目的で声をかけてくる貴族の男の子なんかも多くて、令嬢たちは自分の婚約者に遊ばれるのが嫌で私たちに「そんなに着飾ってはしたない」とか言いがかりをつけてくる人たちもいたけど……。
馬鹿みたい。浮気されるのは自分たちがしっかり相手を捕まえておけなかった責任でしょ。
……って思うけど、私としては浮気相手にされるのなんかごめんだった。
とにかく、遊び目的で声をかけてくる貴族のお坊ちゃんが多かったから、平民クラスの男の子と仲良さそうにしているネイサン様を初めて見た時はびっくりしたわ。
聞いてみたら乗馬や剣術の授業で一緒になって仲良くなったみたい。男子の武術系の授業は貴族クラスも一緒だものね。
――あまりに気さくだから、彼が王太子様って聞いた時にはびっくりしてしまった。
……そして、気づいたら好きになっていた。
王太子様の婚約者が決まるのは最終学年の18歳になった時。成績や家柄や人柄を考慮して、何人かの婚約者候補が選ばれて――その中から王太子様が婚約者を決める。
自分が選ばれるなんて思ってなかったけど、勉強も、見た目も、できる限り目立つように頑張ったわ。――結局、婚約者候補として選ばれたのは貴族のご令嬢たち。
それでも――決まったのが、特別貴族らしくて華やかな方なら諦めがついたけれど……、ネイサン様が選んだのは、ルイーズっていう全然目立ってない、成績が良いだけの地味な侯爵令嬢だった。
もっさりした茶色い髪に、茶色い瞳。全然華やかじゃないドレス。どう見たって、私の方が華やかで美しいのに。どうしてネイサン様はそんな女なんかを婚約者にしたのかしら。
その気持ちはぐるぐると私の頭を支配して、気づいたらそればっかり考えていた。
「城下町の夜市にすっごくよく当たる占い師がいるの」
同級生がその占い師の話をしたのはそんな時だった。