8.(モニカ視点)
「モニカ、君は確かにルイーズにドレスを破られたんだよな」
ルイーズが隣国から留学してきているリアム王子と学園を出て行ってから、私はネイサン様にそう何度も確認された。
「そう……です」
しどろもどろに頷く。ネイサン様は頭を掻きむしった。
「じゃあ、どうして皆の証言が食い違うんだ……」
目撃者の人たちは、今別の部屋に集められている。ネイサン様の側近に、「あなたたちが見たのはルイーズだったか」と何度も確認されているうち、彼らは「違ったような」「似た人だったような」と曖昧なことを口にするようになってしまった。
……どういうことよ!
私は右手でぎりっと自分の左腕を握った。
……魔法はしっかりかかっていたはずなのに……!
ルイーズにドレスが破られた、というのは私の作り話だ。
彼女によく似た背格好で、栗色の長い髪、青い瞳のうちの使用人に制服を着せ、学園に潜入させた。それから「平民のくせにそんな不相応なドレスを着て」という台詞を言わせ、ドレスを破かせた。そして……その場に居合わせた生徒に魔法をかけた。私の言葉を信じるように。
右手の人差し指にはめた赤い指輪を見つめる。
『魅了』の魔法の力を持った指輪。
この指輪に私の涙を振りかけると、私の周りにいる人たちは私に魅了され、私の言葉を信じて従うようになる。
しっかりと魔法は効いていたはずだった。――リアム王子が現れるまで。
「モニカ、聞いてるか」
ネイサン様に肩を揺さぶられて、私ははっとして、表情を取り繕った。
「わかりません……、ネイサン様、私ちょっと気分が悪くなってしまって……、帰ってもよろしいですか?」
弱弱しい口調でそう言うと、ネイサン様は途端に焦ったような表情になった。
「それは……良くないな。今、送りの馬車を準備させよう」
「ネイサン様。目撃者の方々ですが、後日、日を改めて集めていただいてもよろしいですか」
「ああ……、可愛いモニカがそう言うのであれば……」
……ネイサン様には、魅了の効果は続いているわ。
私は内心ほっとした。
ずっと魔法をかけ続けているから、効果が続いているのかしら……。
実は私は、この指輪の魔法の効果について知らないことが多い。
この指輪は……三月前に、城下町で占い師にもらったものだ。
私はネイサン様に寄り添うようにして、送りの馬車に乗った。
「大丈夫か、モニカ」
ネイサン様は優しくそう言って、私の髪を撫でてくれる。
「ええ、ありがとうございます……」
私はそう言って彼に寄り掛かった。
ようやく手に入れた私の王子様。こんなことで手放してたまるもんですか。
指輪の効果がどうして切れてしまったのか確認しなくては。――できるだけ早く。
そして、目撃者たちに再度魔法をかけて、証言させて――あの、貴族っていうだけで、ネイサン様の婚約者になったルイーズをしっかり私たちから遠ざけなくっちゃ。