34.(リアム視点)
「リアム、今回の件について――、王位継承はジュードに譲り、お前は南部の開拓に加わるということで、良いか」
俺を見つめて、厳しい顔でそう言う父上に「もちろんです」と頷いた。
それから、一言だけ聞いた。
もう当分父上に会う事もできないだろうから……。
「父上、――母さんは、あなたにあの指輪の力を使ったと……思いますか?」
「使っていないと思う」
父上ははっきりそう言って首を振った。
「自分は王宮にいる人間じゃないと去ろうとしたお前の母親を引き留めて妻にしたのは私だ」
それから深いため息を吐いた。
「……お前はよくできた息子だと勝手に思っていた。周囲に何か言われても何でも真面目に取り組んで。こんなことをしでかす馬鹿だとは思わなかった」
「……申し訳ありません。父上にもすごく、ご迷惑をかけて」
「……あいつが――、お前の母親が、指輪のことを私に言わなかったのは……、お前がそれを使わないといけないようになると、思っていたからだろうか。私のことは信用していなかったか……」
父上は俺の肩を叩いた。
「南部の開拓は、これからのこの国に必要だ。何もないところで大変だろうが……、任せたぞ」
***
「兄上! 遠くに行っちゃうって何で?」
部屋を出ると待ち構えていたように、弟が絡みついて来る。
その後ろには義母が心配そうな顔で立っていた。
彼女は事の経緯を、指輪の件は抜きで、俺がモニカを焚きつけてネイサンとルイーズを破局させようとしたから、ということで聞いている。
俺は彼女に向かって苦笑しながら言った。
「俺は、本当の魔女の息子になってしまいました」
昔、俺をそう呼んでいたことを思い出して軽蔑した目でも向けるだろうか。
そんなことを思いながら彼女を見て、驚いた。
泣きそうな顔で義母は言った。
「リアム。私、昔、あなたにそんなことを言ってしまったことがあったけれど――、あなたはその事を責めたりせずに、いつも本当に良い子で、ジュードとも仲良くしてくれて」
義母の手が俺の肩に回された。
「私たちはいつでもあなたの味方だから。困ったことがあったら必ず連絡を頂戴ね」
――これは、俺が昔指輪で彼女の気持ちを操ったからか。
そんな疑念はもうどうでもよかった。
独りよがりで馬鹿な事をやって、何をやってるんだ俺は。
二人に手を回すと喉を詰まらせて「はい、母さん」と頷いた。




