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32.

 リアムが、モニカの後ろにいたなんて……。

 目の前で起こっていることが信じられなくて、私はただ口を手で押さえて瞬きを繰り返していた。


『僕がおかしくなっていたことに、リアムが関係しているかもしれない』


 そうネイサン様が言ったとき、私は「そんなことがあるはずない」と思った。

 辛かった時に傍にいて声をかけてくれたリアムが関係しているなんて。

 だから、確かめるためにネイサン様についてきた。

 モニカが協力してくれる、というのが意外だったけれど――。


「あなただって、心を操ったって結局虚しいだけだってわかってたからでしょう……」


 モニカの言葉にぶらりと手を横に下ろしたリアムは呟いた。


「……そうだよ。ネイサンがいなくなれば、君が俺の方を向いてくれる。そう思ったんだ。だけど、無理やり心を向かせるのは嫌だった。それをしてしまえば、ずっと気持ちを信じられなくなるから」


 顔を上げ、私を見つめる。


「君が好きだったから。昔会った君のことを忘れられなくて、ずっと会えるのを楽しみにしていて、実際に君を見たら――どうしても俺のことを見て欲しいと思った」


 そこで言葉を切って、リアムは一呼吸吸って、泣きそうな声で言った。


「ごめん」


 ごめん、ですって?

 その言葉に思わず頭に血が昇った。

 今までのことが一気に頭の中を駆け巡った。


 ネイサン様とモニカが親しく話す様子を見ないふりをしながら、心が痛かったこと。

 学園のホールで急に婚約破棄を告げられ、頭が真っ白になったこと。

 そこにリアムに声をかけてくれて、少し心が傾いたこと。

 お父様やローラは言いがかりを信じずに私の味方でいてくれて救われた気分になったこと。

 それでもやっぱり、ネイサン様のことが忘れられず、もう一度やり直してみようと思った事。

 それをリアムに告げるのは気まずかったけれど、伝えられて、これからも変わらずお友達として接していけそうで安心したこと。

 ……その後ろで、リアムは全部知っていて、それを「ごめん」の一言で済ませるの?


 感情のやり場が見つからず、私は手を持ち上げた。

 

 その手でリアムの頬を叩いた。ばしっと乾いた音が夜の広場の片隅に響いて、リアムの頭に引っかかっていた奇妙な異国の仮面が飛んで、からんと地面に落ちた。


「好き――、好きって、そんなこと言われたって……。初めから、言えばいいじゃない……。こんなこと……」


「君は、ネイサンのことが好きだって見ていてわかったから――。だから、俺が今さら伝えたって、駄目だって思ったんだ。――ごめん」


「だからって――、ごめんって言われたって――、あなたがこんなことをするなんて思っていなかった。良い人だと思っていたのに」


「……ごめん」


 リアムは頭を垂れると、「ごめん」という言葉を繰り返した。

 ネイサン様は、リアム様の顔を持ち上げた。


「――詳しい話は、父上も含めて聞かせてもらう。このまま王宮まで一緒に来い」



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