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26.(リアム視点)

 モニカの友人はすぐに彼女に占いのことを話したようだった。

 彼女の屋敷の周辺に使用人をつけておいたところ、すぐに夜市の方へ出かけたようだと言う報告を受けた。


 そして――俺は、広場で彼女に声をかけ、指輪を渡した。


 さぁ、彼女はどう使うだろう。

 予想通り、ネイサン王子にその力を使うだろうか?


 そう思うと同時に俺は、あの指輪を手放せた解放感を感じていた。

 指輪が手元からなくなることで、あれを義母に使ってしまったことから、ずっと弟や義母に対して感じていた後ろめたさがなくなったような気がした。


 それから、モニカの行動は俺の予想通りだった。


 彼女は指輪の力を使ってネイサン王子の心を自分に傾けさせたようだ。

 学園で二人が一緒に過ごす姿をよく見るようになった。

 モニカがネイサンに何度もルイーズについて印象が悪くなるようなことを言い続けたのだろう、一月、二月後にはルイーズに冷たい視線を向けるネイサンを見るようになった。 ネイサンとルイーズの婚約が危ういのではないか、という噂が学園内に囁かれ始めた頃、俺にはルイーズに声をかけるタイミングを見ていた。

 彼女が落ち込んでいるところへ声をかけるのが、一番心を動かせるだろう。

 そう思った。


 ホールでの婚約破棄の一件が起こったのはそんな時だった。

 

 大勢の前でルイーズと対面するネイサンとモニカを見た時、俺は焦った。

 ルイーズにドレスを破られた? そんな事件をでっちあげるなんてモニカはやり過ぎた。

 ネイサン王子とルイーズの仲が崩れ、婚約破棄になることは望んでいたが、俺はルイーズの評判が傷つけられるような事態は望んでいなかった。


 だから――、彼女が階段から落ちそうになった時に、俺は間に入ったんだ。


 そして、「ルイーズがモニカのドレスを破ったのを見た」と証言する生徒たちに「本当に?」と問いかけた。


 見たところ、モニカはあの生徒たちに、そんなに何度も重ねて魔法の力を使ったわけではなさそうだった。だから――、「本当にそう思うか」と何度か問いかければ、魔法の効果が切れ、素に戻るはずだと考えた。


 案の定、彼らの発言は歯切れが悪くなり、場の空気が変わった。


 経過は予想外だったが、結果は悪くない、と俺は内心で笑った。

 絶好のタイミングでルイーズに声をかけることができた。

 俺はルイーズの窮地を助けたヒーローになれた。


 ***


「ここが城下町の広場です。夕暮れになると夜市が立ちはじめます」


 城下町の広場が見渡せるカフェの席に腰掛けながらルイーズが義母とジュードに説明してくれる。広場では放浪民の大道芸人が芸をしていた。身を乗り出してそれを見ていた弟は義母に「近くで見てきてもいい?」と首を傾げて聞いた。


「リアム、私はジュードとあの芸人さんたちを近くで見てくるわ」


 義母は立ち上がると、俺にそう言って耳打ちした。


「二人の時間を邪魔してごめんなさいね」


「母上、そんな――」


 苦笑して言うと、義母は「ゆっくり話しなさいな」と手を振って、ジュードを連れて広場の方へ向かって行った。


「お二人とも楽しんでくれているみたいで良かったわ」


 ルイーズは広場ではしゃぐジュードを優し気に見つめながら呟いた。


「ルイーズ、二人の案内に付き合ってくれてありがとう」


 俺は彼女の手を取ると、語り掛けた。


「君と過ごす週末は本当に楽しいよ。これからも、ずっとこうして過ごしたいと思ってる」


 戸惑ったように彼女は瞬きをした。


「――友達から、と言ったけれど……、俺を君の婚約者にしてくれないか」


 正面から彼女を見据えて、そう問いかける。

 

 彼女の家の食事にも招待されたし――、学園での昼食も一緒にとり、放課後も週末も一緒に過ごしている。……そろそろ、こんな話をしても良い頃だと思う。


 だけど――、彼女の反応は俺の予想とは違っていて。

 ルイーズは視線を泳がせて、それから俯いた。

 小さな声が告げる。


「……気持ちはとても嬉しいの。だけど――、私は、あなたとは婚約できないわ」


 顔を上げて、彼女は「ごめんなさい」と謝った。




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