19.(ネイサン視点)
モニカの言葉に僕は硬直した。
魔法の指輪なんていうものが本当にあり得るのかわからない。
だから、そのことは、はっきりその存在がわかるまで、外へ広めないようにとモニカには言ってあったのに……。
「魔法……」
ルイーズは訝し気に呟いた。
当たり前だ。そんな魔法があるなんて誰が信じられる?
魔法のせいでひどいことを彼女に言ったんだ、と言ったって、それは言い訳にしか聞こえないだろう。僕が彼女に言った言葉やしたことの事実は消えないんだから。
「ネイサン様、あなたは、心を操られていた……んですか?」
「――言い訳に聞こえるかもしれないが……そうだ、というか……そうとしか考えられないんだ」
僕はルイーズの手を取った。
「僕が好きなのは、君だ。ルイーズ」
彼女が息を呑む音が聞こえた。
「僕は騒ぎまわるのが好きで……天気の良い日にじっとして本を読んでるなんてつまらないことだと思っていた。でも君といると……君と中庭の薔薇の温室で机に座って一緒に本を読んでいると……そんな時間が幸せで……、君といると幸せだった」
僕は大きく息を吐いた。
「こんなことを今まで伝えたことはなかったね……」
失って初めてあの時間の大切さに気づくなんて、僕は本当に馬鹿だ。
「……そんな……、私も、あなたが好きでした。だけど……」
ルイーズは動揺したように言葉を震わせた。
『だけど……』か。
想像はしていたけれど、その答えに僕は呆然とした。
それはそうだ。今さらこんなことを言ったところで、あんなことを言ってしておいて、というふうに思うのは当然だろう。
それに……、久しぶりに学園に来て、聞いた話では、あの時、僕が階段で彼女を押した時にその背中を支えたリアム王子が僕らが欠席していた間ルイーズと親しくしていて……家での夕食にも招かれたと聞いた。
『婚約破棄をなかったことにしてほしい』
そんな言葉が頭を過ぎったけれど、僕は首を振ってその考えを散らした。あんなことをした僕が今さら彼女に何かを言う資格があるだろうか……。
「本当に申し訳なかったと思っている。ごめん、ルイーズ」
ただそれだけ言って、頭を下げる。
「もう過ぎた事です。頭を上げてください」
ルイーズはそう言うと、僕らに背を向け、父親と母親がいる方へと駆けて行った。




