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18.

 それから数日後、学園のホールには生徒、それから生徒の家族が集まっていた。私はお父様・お母様と彼らを掻き分けて前へと進んだ。


 これは――国王様が設定した、ネイサン様とモニカからの私への謝罪の場だった。


 ホールの中央には、ネイサン様・モニカ、そして国王様がいた。

 私たちが前に出たのを確認して、国王様は重たそうに口を開いた。


「先日、我が息子ネイサンがルイーズ=アルフォンソに婚約破棄を告げた騒ぎについて、報告がある。ルイーズがドレスを破いたと申し立てた、モニカ=アスタルトの発言は嘘であった」


 ホールが騒めいた。

 促されるように、ネイサン様とモニカが前に出る。

 ネイサン様がモニカの背中に手を置いた。

 涙交じりの声で、モニカが言った。


「ルイーズ様が私のドレスを破いたり……虐めていたというのは……嘘です。私が自分でドレスを破き、その場に彼女に似た背格好の使用人を……用意しました」


 モニカは声を震わせたまま頭を下げた。

 ネイサン様は私を見つめてから、同じように頭を垂れた。

 騒めきがさらに広がる。


「僕はその言葉をそのまま信じてしまい、ルイーズをこのホールで責め立ててしまった……。申し訳なかった。君がそんなことをする人ではないと僕は知っていたのに……」


 皆の視線が私に集中した。

「ルイーズ、息子が名誉を傷つけるようなことをしてしまい、申し訳なかった。……何か、言葉はあるだろうか?」


 国王様が私に問いかける。

私は動揺してしまっていた。憑き物が落ちたようなネイサン様の様子に……。

 私の良く知るネイサン様に戻ったみたいだ。

 ……何があったの?


 何と声をかけていいのか、言葉が出てこない。


「――謝罪したところで、ネイサンが責め立てた事実が消えるわけではない。許しの言葉は不要だよ、ルイーズ」


 私が無言でいると、国王様はそう言ってホールを見回した。


「モニカ=アシュタロトには退学を、ネイサンには学期中の謹慎を命じる。この件についてはこれで終わりだ。無用な噂話などはせぬように」


 そう言って国王様は解散を告げた。


「全く――本当に、謝罪されたところで、許せるわけがないだろう」


 横でお父様が厳しい声で呟く。

 だけど、私はホール中心で私を見つめるネイサン様を見ていた。

 何か言いたげに何度か口を動かしてから、意を決したようにネイサン様は言った。


「ルイーズ……! 君と、話がしたい……」


 切実な声でそう言われて、私は息を呑んだ。


「ルイーズ、もう話すことはないだろう、行こう」


 お父様が私の手を引っ張る。私は逡巡してから、その手をほどいた。


「少し……少し話をしてきます」


 私はネイサン様たちの方へ足を進めた。

 解散しかけた会場の人たちが何が始まるのかとこちらに注目する。


「ルイーズ……!」


 ネイサン様は瞳を輝かせるようにそう名前を呼んで、国王様を見た。

 国王様は私たちを見比べて「こっちへ」とホール奥の部屋へと私たちを案内した。


 ***


「ルイーズ……僕と話をしてくれてありがとう」


 私と向かい合ったネイサン様はそう言って、深々と頭を下げた。

 何と、言うべきなのかしら。私は言葉を探しまわって、ようやく問いかけた。


「話、というのは何でしょうか」


「君に直接謝りたかったんだ。君がやってもいないことで責め立ててしまって……。モニカも」


 ネイサン様がモニカの背中を押す。

 彼女は一歩前に出ると、私とネイサン様に何度も視線をぐるぐるさせてから、泣きそうな顔で頭を下げた。


「……ごめんなさい」


「モニカ、あなたとは話したこともないと思うのだけれど……、何でこんなことを?」


「――あなたが、ネイサン様と婚約しているのが妬ましくって……っ。なんとか婚約破棄をさせてやろうって……、そう思ってしまったの……」


 目も合わさずに、モニカはそうまくし立てた。

 私は何と表現していいのかわからない気持ちになった。

 私に似た人を用意して、そんな嘘をついて、そんなことは、バレるというのに彼女はわざわざそんなことをしたというの? ――学園を退学になってまで。


 貴族ではなく、この学園に在籍しているということは特別だ。

 やがて領主や役人になる貴族の子弟と人間関係を作ることができることもあり、学園を卒業したという肩書がつけば、今後の人生を順風満帆に過ごすことができる。

 だけど、退学となれば……、それは貴族との重大な問題を起こしたということになり、信用が大切な商人の家であれば、危ういものに近づかないために避けられることになるだろう。


 ――そこまで、ネイサン様のことが好きだった?


 私は彼女のその向こう見ずな行動力に圧倒されたような気分になっていた。

 私……私はネイサン様が彼女と過ごしているのを視界の端で見ていても、彼女は何なのか、どうして最近私を誘ってくれないのか確認することもしなかったのに。


 濡れ衣を着せられた怒りはもちろんあるけれど……、彼女に対してその怒りをぶつけるような気持ちにはならなかった。


「――もう終わったことだもの……。いいわ……」


 それだけ呟いて二人に背を向けようとすると、モニカが私の手を掴んだ。


「いいわ、だなんて……。もっと怒鳴ればいいのに、どうして怒らないの」


「怒って何かが変わるわけではないもの。あなたはそれだけネイサン様が好きだったのね」


 そう答えると、モニカは一瞬黙って、それから小声で「どうして、あなたは」と呟いた。

 「え?」と聞き返すと、彼女は私を見つめてはっきりした声で言った。


「私、ネイサン様の心を操ったわ。城下町の占い師からもらった魔法の指輪で!」


 私は立ち止まった。

 ……魔法の指輪? そんなものがありえる?

 

「ネイサン様が好きなのは、ずっとあなただったのよ……」


 


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