6 白銀の壮麗剣士
ギルドにて行われた作戦会議は、昼少し過ぎに終わった。
準備には時間がかかるため、3組の冒険者は素材の確保に向かい、他の者は英気を養うべく休息を取る。
明日は全日準備に使うため、討伐戦決行は翌々日となる。
そんなわけなので、カウス一行は久々に再開したレデリエットとの話に、花を咲かせるのだった。
彼らが初めて顔を合わせたのは7年前の事で、以来度々顔を合わせていた。
「前に会ったのは、南部密林の古生種被害の調査の時だっけか。途中で俺らは、カウスの予定変更のせいで帰ったけど、あれは結局どうなったんだ?」
「進展なしだったよ。あの後、痕跡の一つすら見つからないどころか、蒸し暑いし虫に刺されるしで大変だったな」
「うわぁマジか。カウスてめえのせいだぞ」
「やりたい事出来たから仕方ねえだろ」
「まぁ、カウスの奇行は今に始まったことではないしな。…ところでだ。先程から気になっているんだが…この子は?」
「え?あぁそうか!二人は面識無かったな!」
レデリエットとカウス達が以前合ったのは、二年半前。
その後オルマと出会い、パーティを組んだのが二年前なので、二人に面識は無い。
「そうだな、俺らの連れだし、お互いで自己紹介でもしとこうか」
「はい。はじめまして、オルマです。オルマ・イル・アミドルークって名前です」
「私はレデリエット。レデリエット・ディーナという。よろしくな、オルマ」
お互い固く握手を交わし、話題はオルマの事に変わる。
「随分と素直でいい子じゃないか。オルマとの出会いはどうだったんだ?」
「誘拐に近かったな」
「え」
「ゆ、誘拐!?カウス、お前そんな事をしたのか!?」
「え?ち、違います!合意です!合意の上ですから!!」
「え、そういう!?そういうやつ!?」
「いやちげえから!そういうやつじゃねえしおめえらも言い方何とかしろや!普通に出会ってお互い仲良く出来そうだから組んだだけだよ!!」
「両親には許可は取ってないがな」
「取ってないのか!?!?」
「だから余計なこと言うなおめえ!!確かに取ってねえけど!!」
「取ってないじゃないか!!」
「大丈夫ですから!そこは大丈夫ですからー!!」
この後、レデリエットの誤解を解くためイロウルが必死に弁明を繰り返していた。
そこでカウスが更に余計な事を言わなければ余計に時間がかからなかったが、まぁそこは彼なので仕方がない。
「はぁ…。何もしてねえのに疲れた…」
「変な奴だな」
「おめえのせいだボケナス…」
「ふふ。君も君で随分ノリノリだったように見えるけどね?」
「ほぅ、言ってくれるじゃねえの〈白銀の壮麗剣士〉さんよぉ?」
「ちょっ…それはやめてくれ!恥ずかしいだろ…!」
「〈白銀の壮麗剣士〉…?」
イロウルが言い放ったのは、名のある冒険者に対して、尊敬の念を込めてつけられる二つ名だ。
レデリエットは美しい白銀の髪を持つ容姿端麗な女性で、戦い方も力任せの剣術ではない、相手の間合いと攻撃の隙を華麗に突く戦術を得意とする。
その剣舞は、見ようによってはバレエのような演舞を思わせる壮麗な様であるため、容姿も相まってそう呼ばれている。
もっとも、本人はその名で呼ばれるのは恥ずかしいようだが。
「へぇ…初めて知りました。なんだかとってもかっこいいですね!」
「あ、ありがとう。私自身、結構恥ずかしいんだがな」
「でも、そんな風に呼ばれるって事は、きっとみんなから尊敬されてる証ですよ!」
「ふふ、そう言ってもらえると嬉しいな」
「あの、私もう少しお話を聞いてもいいですか?レデリエットさんがどんな所に行ったとか、どんな生き物を見かけたとか!」
「ああ、私は構わないが…。イロウル達はどうだ。今日は休みとはいえ何かないのか?」
声をかけられたイロウルは、チラッとオルマの顔を見る。
彼女は、知的意欲に狂った色の目をしていた。イロウルはこの目を知っている。
普段余計な事ばかり言って、誰かしらを常に腹立たせる、一番信頼している性根の腐りきった竜人もその目をしているのだった。
イロウルも、そんな彼女の知的好奇心を無下にするつもりは毛頭ない。
よってここでは、二人きりにして話に花を咲かせてあげたほうが良い。彼はそう判断した。
「ん?特にはないな。まぁ俺らはよく話聞いてたから、ここはお二人さんだけでごゆるりと。カウス、外行くぞ外」
「何処に行く気だ」
「どっかしら。適当にふらつくんだよ。いいから着いてこい。そんじゃな〜」
ひらひらと竜の手を振りつつ、今までさんざん苛つかせてきた復讐も兼ねて、引きちぎれるのではないかという力でカウスを外に連れ出す。
この際なのでカウスの痛えという文句は聞こえなかったことにする。
「やれやれ。相変わらず騒がしく愉快だな彼らは」
「そうですね。いつもあんな感じですけど、結構楽しいですよ」
「それでもって実力は凄いから困ったものだよ。…さて。私の話が聞きたいんだよね。話せる範囲であればいくらでも話してあげるよ」
「ありがとうございます。色々と聞きたい事はあるんですけど…。そうですね、まずはレデリエットさんが出会ってきた生き物について、お話が聞きたいです!」
「そうか、わかったよ。まず私がこれまでの冒険で出会ってきた生物だな…ん?生き物??」
レデリエットは、ウキウキしながら普通は聞かないようなことを質問し、キラキラした目線をこちらに向けるオルマを見て思った。
あぁ。この子もあれとそれと大差のない変人か、と。
ここでオルマの話になるが、彼女は元々生き物が好きで、それを理由に冒険者になったのだ。
これは父親が何となしに買ってきた生物図鑑が原因で、そこに載せられた数々の生物や魔物に、心を奪われてしまったのだ。
実はハミドゥーダを目撃したあの時も、努めて平静を装ってはいたものの内心初めて現物を見た興奮が抑えきれずにいた。
「生物ねぇ。案外学者気質みたいなところもあるのかな。さて、オルマちゃんはどんな生き物が好きなのか教えてくれるかい?」
「どんな生き物も好きですけど、特に竜類は堪らないですね…!細かく映え揃った鱗に、ゴツゴツした何者の歯牙も寄せ付けない甲殻、引き裂くような視線を与える目、絶対者足りうる牙!特に強大な竜類は自然界の王者たる姿ですからね!」
「お、おお、結構熱く語ってくれるね…。…竜類かぁ。私も結構色々なところに行ってるから、それなりに竜の魔物は見てきたよ。どれもこれも曲者で、そしてでたらめに強かった」
竜類。
獣類の次に多く確認されている種族で、走竜のような下位の者から、生態系の上位種に君臨する生物も多い。
桁外れの魔力量を有し、堅牢な外殻と鋭利な爪牙で他の生物を圧倒する。
オルマが一番好きな生き物だ。
「それじゃ、とっておきを話そうかな。…オルマちゃんは〈銀隻竜〉という竜を知ってるかな?」
「知ってます!〈金隻竜〉と対を成す竜ですね!右と左、それぞれ角の長さが異なる竜なのは知ってます!」
「流石。実は私ね、あれに一度だけ出会った事があってね。その時を話しをしようか……」
その言葉に、オルマの目がますます煌めく。
銀隻竜と金隻竜は、純竜種に分類される希少な生物で、出会える事は一生かけても稀とされる。
当然、オルマもそんな生物に興味を抱かないわけがなく、あれこれと質問攻めをしてしまう。
そんな話に夢中になって聞いてくれる彼女に、気を良くしたレデリエットも、次々と言葉を紡ぎ話を進め、時間はあっという間に過ぎてゆくのだった。