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3 沸き起こる疑念

「本来ならここで見つかってはいけないような物」。そうオルマは口にした。


「どういうことだ?この泥玉がそんなにヤバい物なのか!?毒とか!?」


「そんなもの置きませんって!泥玉自体は安全です。でも、よく見てください」


 よく観察すると、林で採取できる土だけではない、あらゆる土壌の土が粘液によって固められている。

 しかも、所々極小サイズの水晶片のようなものも確認できる。


「こりゃ変だな…明らかに外から持ち出されてる」


「これがどういう経路で運ばれたかまではわかりませんけど…風で飛んできたにしては、この形状のままなのはおかしいですし」


「生態系外からの生物、か」


「証拠なら、俺もある」


 そう言うとカウスは懐から試験管を取り出すと、本来であれば赤黒いはずの採取した血液が異常な色をしていた。


「この色は酸性血液の色だな…。アルキの樹液か」


 アルキの樹液は、酸性の血液に対して強い反応を示す特殊な樹液。

 普通の弱アルカリの血液であれば、何も変色はしないのだが酸性血液を持つ種の血、ないし血液と酸性液の混合液と混ぜることで、血液中に含まれる酸性物質と結合し、黄色に変色する。


「カウス、アルキの樹液はまだ余ってるか?」


「予備ならある。試験管もついでだ。使え」


「助かる。オルマ、泥玉は溶かしても大丈夫だな?」


「はい、大丈夫ですよ」


「よしありがとう。予想が正しけりゃ…やっぱりか」


 イロウルの予測通り、泥玉を溶かした液体は黄色く変色した。

 すなわち、林に突如現れ、多くの生物を殺害した生物と、泥玉を生み出した生物は同じ可能性が極めて高い。


「大蚓種、か」


 大蚓種。虫類生物の中でもとりわけ巨大で、獰猛な生物が分類される。

 多くの大蚓種は、砂や岩、獲物の硬い甲殻を砕き溶かすために酸性液を保有しており、牙に存在する唾液腺と通じて酸性液を流し込み、溶解させる。

 しかし本種は一部の亜種を除き、砂漠地域にのみ生息する。

森林地帯に出現した例は、皆無である。


さらに、種を特定できたとしても、問題はまだある。


「問題は合致する生物が多すぎるんだよな…。そもそも大蚓種だけで何匹いるんだ」


「8種くらいいたような…」


「8??8かあ…特定めんどくさいぞこれ…」


 長い沈黙が部屋中に染み渡る。結局、これ以上の進展は望めなかった。




「俺は眠い。寝る」


「私も眠たいですぅ…」


「俺はちょい外散歩するわー。おやすみさんお二方」


 オルマとカウスは床につき、イロウルは窓から外に飛び立つ。眼下には冒険者のテントが複数確認できた。

 そしてしばらく夜風を浴びながら旋回して、部屋に戻ったイロウルも眠りについた。




 探索は2日目を迎えた。

 昨日から今朝にかけて他4組のパーティが支援に駆け付け、彼らは村の警護に当たる。

 一方カウス達は、朝から再び林にて探索を行う。


「う~ん、よく晴れたな!悪天候にならなくて何よりだ!」


「捜索もしやすいですね!」


 本日の天気は、雲一つ見えない快晴。探索するにこれ以上ない天候となった。

 とはいえ、彼らはピクニックに行くわけでもないし、ましてや行く先に想像を絶するものがあってもおかしくはないどころか、命の危険すらもある。


「ま、用心するに越したことはないな。それじゃ行ってくるよ」


「吉報を持ち帰れるよう、がんばりますね」


「あぁ」


 村の人と、警護の冒険者達に見送られながら二人と一匹は村を後にする。

 目指すべきは、昨日見つけた異変の元凶の手がかりが潜むであろう、奥地。


 奥地こそ危険度は上がるが、この地の生態系を見るに、昨日のように道のりはそう危険なものにはならないはずだった。


「待て。……いるな、何か」


「先程から気配はしてましたが…」


 イロウルが爪を構えた刹那、小柄な狼が数匹草むらから飛び出してきた。


「グルルルル…」


「お目々が血走ってらっしゃる。極度の興奮状態にあるな」


 牙を剥き出しながら、威嚇するのは、獣類脚獣種に分類される、群狼〈テルウオッカ〉。

 本来ならおとなしい性格の彼らだが、今はまるで何かに陽動されるように興奮している。


「奴らにゃ非はないからな。軽くあしらう程度にするぞ」


 それが何故襲ってくるか、理由こそ明確ではないが、大凡この森に住まうべきではない「何か」のせいで、気が立ってしまっているのだろう。

 そうなった、否。そうなって()()()()生物に、当たり前だが罪はない。


「ちょいと通してくださいなっ…と!」


 その言葉と同時に、カウスが素早くテルウオッカの群れの足元に、一本ずつ矢を放つ。


 無から矢を生み出し、射る。

 生成の魔術に特化した、それこそが彼の戦い方であり、同時にそれくらいしか魔術は扱えない。

 とはいえそれが普通であるし、そもそも無から有を生み出す時点で、凄い技である。


 後ろから矢を射ったカウスの顔は、眼前の生物を威圧するそれであった。


「帰りな」


「キャウンッ」


 それだけポツリと言い放ち、恐怖を覚えたテルウオッカの群れは散り散りに逃げていった。


「ナイスだカウス…って、こっわ顔。朝していい顔じゃねえぞ」


(つら)は生まれつきだから言われてもな」


 カウスの顔つきは、よく普通の人のそれではないと言われることが多い。端的に言えば強面というやつである。


「それにしても、相手を傷つけず上手いことやるねぇ。流石の腕だ」


「褒めてもなんもやらんぞ」


「知ってるっつーの」


 実際カウスの弓の腕前は凄まじく、小柄な生物の前、それも傷つけないギリギリに、三本の矢を連続して放つなど、並の腕前では到底出来ないだろう。


「カウスさんの矢捌きは見惚れちゃいますもんねぇ」


「…そうか」


「デレッデレじゃねえかよおめぇ」


 無駄口をたたきつつも、一行はハイスピードで奥へと突き進んで行く。


 さて、目的の地についたはいいが、よく見ると昨日よりもその惨状は悪化していた。

 倒木には何らかの生物の血液が付着しているし、無惨な亡骸もちらほら見受けられる。


「…奥に進むしかねえな。気ぃ引き締めろ」


 一行は、まだ見ぬ脅威を探るべく、地に残された蛇行跡を追跡し、奥へと進む。

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