表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

83/110

第83話 招かれざる者達

 アデレードはディマを連れていつものように山の中を散歩していた。秋の少し冷えて澄んだ空気が心地良い。


 ラシッド先生はどこかの名家の出身なのかしら? お医者さんになるくらいだもの、裕福で教養のある家の出なのは間違いなさそうだけど、医学の道に進むのを家族に反対されて家を出たってこと? それで、家で何かあってシャリーマさんが戻ってきて欲しいと願っている……と、いうことかしら?

 アデレードがぼんやりラシッドとシャリーマ兄妹のことを考えていると、ディマが急にけたたましく吠え始めた。警戒しているのか体中の毛も逆立っている。


「ディマ、どうしたの? 何か動物でもいたの?」


 アデレードがディマの傍まで歩く。周囲を不安そうに見回すと知らぬ間に黒ずくめの男達が3人、アデレードとディマの前に湾曲した剣を構えて立っていた。


「貴方たち一体……」


 アデレードは体を強張らせ、胸の前に両手を合わせる。




 これより少し前、カールの屋敷にラシッド医師の姿があった。


「先生、こんな朝早くどうした?」


 カールは突然訪問してきたラシッドに驚く。彼は少し申し訳なさそうな顔をしている。


「いえ、最近村の皆さんをお騒がせしているようで」

「あぁ。確か、妹御が来ているとか」

「えぇ、まぁ……」

「それがどうかしたのか? 私達は別に妹御が村に滞在しているからといって、迷惑ということはない。だがまぁ、確かに村唯一の医者を連れて帰られては困るが」

「伯爵、あの……」


 ラシッドが口を開きかけた瞬間、ドアを叩く音が部屋に響く。そして執事が困惑した顔で入って来た。


「何だ?」

「お話し中すみません。それが、村の猟師が山の中で不審者を捕まえたそうで、屋敷まで連れてきております」

「密猟者か?」

「それがどうも違うようで……」


 カールとラシッドは顔を困惑したように見合わせるが、とりあえず大広間まで降りていくと、そこには転がされた手足を縛られている黒装束の男が1人と、ゲアハルトを始めとする村の猟師達と、衛兵が集まってきていた。


「一体何があった?」

「へぇ。昨日から猟に出ていたんですが、どういうわけか山の中が異常に静まり返っていたというか、獲物の気配がまったくしなくて、それで小屋に一泊して、今朝夜明け前から猟を再開したんですが……」


 カールの質問に猟師の一人が答える。


「んで、そこでこいつがうろうろしていたのを見つけて、密猟者かと思って声を掛けたら、いきなり斬り掛かってきやがったんだよ。あぶねぇヤツだぜ」

 

 そう言ってゲアハルトは手に持っていた剣をカールに見せる。それは刃の部分が大きく反ったもので、一見してこの国では使われていないものだと分かる。ラシッドがその剣を見て青ざめた。


「でも、ゲンさん、そんな危険な相手をあっという間に倒しちまって。いやぁ、凄いもんだ」

「よせやぃ。昔、冒険者や用心棒稼業してたってだけだぜ。で、密猟者かと思ったんだが、弓も持ってねぇし、周囲に罠を張ってる様子もない。それでここまで連れてきたってワケだ」

「えぇ、この者は密猟者などではありません」


 ラシッドが縛られている男に近づき、右腕の袖を捲り上げる。そこには薔薇の花のような模様の入れ墨が彫ってあった。


「ある国の危険な任務を担う者達の、これはその証です」

「先生、ヤバい奴らと知り合いなんだな」


 ゲアハルトが皮肉気に片眉を上げる。


「狙いはシャリーマか……いや、私でしょうか、おそらく」

「それはどういう……」

「伯爵、話は後だ。こいつが土地勘もない所に単独で来ているとは思えん。仲間がまだ山の中に潜伏してると思うぜ」

「あぁっ!」


 猟師の一人が緊迫したような声を上げる。メグの父親だ。全員がそちらを向いた。


「この時間ならお嬢さんが犬の散歩に山にいるんじゃ……」


 その言葉にカールの目が大きく開かれる。

 出会い頭に猟師達を殺そうとするような連中である。遭遇したらアデレードの命はない。カールの脳裏に血だまりの中で倒れている彼女の姿が浮かぶ。


「アデレードッ……!」


 カールは思わず、耐えきれなくなって走り出す。


「坊ちゃん!」


 執事が大声で主を制止した。カールは怖い顔で振り返る。止められたことを怒っているのは明白である。


「武器も持たずにどうするつもりです」


 窘めるように言い、執事は弓と矢の入った筒、そして剣をカールに手渡す。どうやら必要になるかもと思い、取りに行っていたようだ。それで、カールは冷静さを少し取り戻した。


「ゲアハルト、この男を見つけたところまで案内してくれ。他の猟師達は村々を回って、私の許可が降りるまでは、戸締りをし、家から一歩も外へ出るなと伝えて欲しい。衛兵!」


 兵達がカールの前に整然と並ぶ。


「一部はホテルへ行け、ラシッド先生の妹御が狙いならホテルは危ない。あとの者は私と山狩りだ。先生、悪いが屋敷で待機してもらいたい。話は後ほど伺おう」

「はい」


 ラシッドは静かに頷く。カールは屋敷の警備に最低限の人数を残し、山へと向かった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
↑の☆をクリックして5にして応援して頂けると励みになります。ブクマも大歓迎です。よろしくお願いします!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ