第7話 まずは家の修理から
次の日、アデレードは昨日住民から頂いたパンを朝食に食べた後、手始めに掃除をしようと思い立った。それにはまず、掃除道具を探さないといけない。屋敷の中をあちこち探して、ようやく小さな部屋の中で見つけた。おそらく倉庫か何かなのだろう。他にもアデレードには見慣れない道具が幾つも置いてある。
「えーと、これかしら?」
アデレードは箒を手にする。しかしながら、彼女は公爵家の令嬢で、生まれてこの方掃除などしたことがない。アデレードは箒を手にした。とりあえず廊下を掃いてみると、たちまち埃が舞い上がる。たまらずアデレードはくしゃみを繰り返した。彼女の周りをちょろちょろしていた子犬のディマもくしゃみをする。
「使い方が間違っているの……?」
涙目になって困っていると、玄関のドアを誰かが叩いた。アデレードがドアを開けるとカールが立っていた。
「リ、リーフェンシュタール伯爵?」
アデレードは目を丸くするのと同時に、埃まるけの自分の格好を恥じ入った。
伯爵には、また情けない姿を晒してしまったわ。
「おはよう、フロイライン。掃除していたのか?」
カールはアデレードの出で立ちを見て、そう尋ねた。
「は、はい」
服やら髪に灰色の塵が纏わりついている。
「は、はい」
「1人でか?」
「この家には私しかいませんもの、当然ですわ。とりあえず、出来ることから始めてみようと思って」
「……ちなみに掃除の経験は?」
アデレードは首を振った。カールは何も言わず額を押さえる。
やる気になったことは良いことだが、フロイラインは極端だな。
「誰かに手伝ってもらった方が良いと思うぞ」
「そう、ですよね……」
アデレードは困り顔になった。とはいえ、誰に頼めば良いか分からない。
そこで、カールとアデレードは別荘から村まで行き、井戸端会議をしていた村のおばさん達に声を掛ける。すると話はどんどん広がっていき、アデレードの屋敷の前には数十人が集まっていた。
「何だか、とっても大事になってしまいましたわね」
アデレードが呆然と呟く。
「そうだな……」
それにカールも同意する。彼としては、アデレードの掃除の手伝いを頼むだけのつもりだったのだが、いつの間にか住民の間で屋敷の改修にまで話が及んでいる。
「お嬢さん、とりあえず屋根の補修しないと雨漏れしますぜ」
「床板も張り替えないとなぁ」
「冬用に薪も用意しないと」
「掃除もしないといけないねぇ」
「カーテンや絨毯も新調した方が良いと思う」
「庭も雑草が伸び放題だし整備しないと」
住民達は口々にアデレードに話しかけるので、彼女はすっかり困惑してしまう。その様子を見ていたカールが大きめに咳払いをした。住民が黙ってカールの方を見る。
「それで、この屋敷は相当に状態が酷いのか?」
「それはもう。何せ10年近く放ってありましたから」
屋敷の中を見た住民達が頷く。
「フロイライン・アデレードは屋敷を改修することに異存はないんだな?」
「はい。私もこの屋敷を修繕する必要があると感じてはいるのです。皆様、ご協力頂けますか?」