表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

69/110

第69話 災い転じて……

 カールは、子ども達からディマを預かり、ホテルまで連れて歩いていく。道中ディマはアデレードのことが気になるのか何度もチラチラと振り返った。


「伯爵っ!」


 メグがドアを開け、カールが立っているのを見て驚いた。


「それに、ディマ?あの、お嬢さんは?」


 そう問われて、カールはアデレードがラシッド医師の家で休んでいる経緯を話す。ディマその間に、するりと2人の間をすり抜け談話室に行き、窓の前に座って外をじっと見つめた。アデレードが帰ってくるまでそこにいるつもりだろう。


「そう言えば、昨日の夜、お酒のこと随分気にしてました、お嬢さん」

「今、フラウ・シュミットが滞在していると聞いたが、中へ入っても良いかね?」

「えっと、確認してみますね。お待ち下さい」


 そう言ってメグが急いで食堂へ向かう。今、シュミット夫人は朝食を取り始めたところだ。戻ってきたメグが、どうぞ、と中へカールを招く。


「フラウ・シュミット」


 食堂へ入りカールが声を掛けると、シュミット夫人も立ち上がって彼を迎えた。


「リーフェンシュタール伯、お久しぶりですわね。あの劇場でお会いして以来かしら?」

「そうですね。食事中にお邪魔して申し訳ない」

「いいえ。どうぞ伯爵、お座りになって」


 カールとシュミット夫人は向かい合って座った。メグはカールに紅茶を振る舞う。


「驚きました。貴女がこんな辺境にいらっしゃるなんて」

「一度くらいは来てみたいと思っておりましたの。取引させて頂いてますし。ですから、仕事の骨休みついでに、ね」

「それで、いつまでこちらに?」

「そうですわね、あと数日は居るつもりですわ。そう言えば、フロイライン・マイヤールはどちらかしら?犬の散歩に行ってらっしゃると聞きましたけど」

「昨夜、貴女に言われたことを気にして、二日酔いで休んでますよ」

「え?」

「ホテルにある酒を全種類味見したそうで」

「まぁ!そうなの、ふふっ」


 カールの話を聞いて、可笑しかったのか驚いた後、笑い出すシュミット夫人。


「笑いごとではありませんよ。あまり彼女を煽らないで下さい。こうと思ったら直ぐにやらずにはおれない性格なので」

「心配してらっしゃるのね、伯爵」

「別に心配というわけでは……」


 シュミット夫人が面白いものを見たような、含みを持った笑みを見せるのとは対照的に、カールは苦虫を噛み潰したような表情になった。


「別に煽っているつもりは無かったのですけれど、気を付けますわね。フロイライン・マイヤールは伯爵の大事な人みたいですし」

「だから、別にそういうことではありませんよ……」


 散々シュミット夫人に揶揄からかわれて、疲労を感じながらカールはホテルから帰っていった。屋敷に着くと、カールは早速執事に、ある頼み事を言付けた。

 数時間後、気分のだいぶ良くなったアデレードは、ラシッド医師に礼を言い、ホテルに戻ろうとしたとき、カールが再び医者の家にやってきた。


「伯爵」


 アデレードとラシッドが目を丸くする。


「フロイライン、もう体調は良いのか?」

「はい。伯爵にもすっかりご迷惑をお掛けしてしまって……何か村に御用があったのでは?」

「いや、ただ様子を見に来ただけだから気にすることはない。それで、フロイライン。これを」


 カールはそう言って、封筒を懐から取り出し、アデレードに渡す。


「これは?」

「中を見てくれ」


 彼に促されて、アデレードが封筒の中に入っていた折られた紙を出し、開いた。


「それは、この前選んだ酒の味や風味、それに合う料理を簡単に書いたものだ。ホテルに置いてある多くの銘柄は、我が屋敷にも置いてあるからな。料理人や酒に詳しい者に聞いて纏めたものだ。何かの役には立つだろう」


 やや気恥ずかしそうにカールは紙に書かれた事柄を説明する。


「伯爵っ……」


 何故この方はこんなに、私が必要としていることをさらっとやってしまわれるのかしら。


 アデレードは、カールの心遣いが嬉しくて、瞳を潤ませてカールを見つめる。


「フロイライン?」

「今すごく、伯爵に抱きつきたい気分ですわ」


 感極まっておかしな発言をしたアデレードに、カールは怪訝な顔をして答える。


「……君はまだ酔いが抜けきっていないようだな」





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
↑の☆をクリックして5にして応援して頂けると励みになります。ブクマも大歓迎です。よろしくお願いします!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ