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第68話 アデレード、初めて二日酔いになる

 次の日の早朝、いつものようにディマが散歩に行くため、アデレードを起こす。前足や鼻を使って優しく主人の体を揺らしたり、舌で顔を舐めたりした。


「うーん、ディマ……ちょっと待って……」


 アデレードは異様にだるい体を起こそうとした。


「あ、いった……」


 体の重さに加えて、頭もがんがんと痛い。


 どうしてかしら?


 とりあえず、アデレードはゆっくりした動きでベッドから起き上がり、出掛ける支度を整えて、階段を下りる。厨房の方から音がするので、メグとクリスが朝食の準備をしているのだろう。クリスは客がいる間は隣村から通いではなく、薪や木炭を置いてある倉庫に泊っている。3階の部屋が空いているので使ってくれと言ったら、固辞されてしまった。変なところに律儀である。


 朝食は2人に任せて大丈夫ね。


「ディマ、今日は村の方へ行きましょう」



 何だか倦怠感が強くて、とても斜面を上げる気になれない。アデレードはディマを連れて村の方へ歩いていく。しかし、歩く度に、頭が何だかくらくらしてきた。我慢できなくなって、村の入口辺りで思わずしゃがみ込む。早起きの村の住民達が気が付いて心配そうに声を掛けてきた。


「お嬢さん、どうしたんだい?」

「気分が悪いの?」

「顔が真っ青だよ」

「……頭が痛い……」


 住民の呼び掛けにアデレードが絞りだすようにか細い声で答える。


「そりゃ、大変だっ」

「ラシッド先生のところまで行けるかい?」


 ディマがアデレードの周りを心配そうにうろうろしていたが、誰かが近づいて来たのを見つけ走っていく。


「あらっ伯爵様」

「丁度良かったよっ」


 ディマに袖を引っ張られてカールがアデレードの傍までやってくる。


「フロイライン、どうした?」


 カールが心配そうに身を屈め声を掛けた。


「頭が痛いんだって」

「先生の家に連れて行こうとしていたところで」

「分かった。フロイライン・アデレード、失礼」


 カールはそう言って、軽々とアデレードの体を抱き上げる。


「えっ……」

「嫌だろうが、少し間だけ我慢してくれ」

「い、嫌だなんてっ」


 こんなに気分が悪くなかったら嬉しいくらいだ。だが、今は恥ずかしいやら申し訳ないやらで感情が混乱している。


 でも伯爵の体の温もり、匂い……この時間が少しでも長く続けば良いのに。


 ラシッド医師の家へ向かうほんの僅かな時間だけ、カールの胸にそっと、アデレードは頭を寄せた。



「お嬢さん、これは二日酔いですね」

「えっ……」

「二日酔い?」


 ラシッドがやってきたアデレードを診断し、そう結論付けた。それを聞いたカールとアデレードは目を瞬かせる。


「要するに飲み過ぎですね。そんなに何を飲んだんです?」

「えーっと、ホテルで揃えたお酒類を全部、味見してたのです。でも、確かに最後の方はふらふらしていましたわね。部屋に戻るのも大変だったような……」

「それだけで済んで良かったですよ、お嬢さん。一度にたくさんのお酒を飲むと、急に意識が無くなり、最悪死ぬことだってあるのですから。気を付けて下さい」


 ラシッドが真剣な声音でアデレードを諭す。


「しかし、何故そんなことをしたんだ、フロイライン?」

「実は今、ホテルにお客様がいらっしゃってるんです。伯爵もよくご存知のフラウ・シュミットが」

「フラウ・シュミットが?」


 カールは、意外な人物の名前を聞き、驚いた顔をした。


「はい。それで昨日、夕食の際に、ホテルにあるお酒のことをどれだけ知っているのかと問われて……」

「なるほど。それで飲んでみたわけか」

「そうですわ」

「先生の言う通りだ。無茶をする」


 そう言われて、アデレードはしゅんとする。


「ホテルに滞在している間に、ここに来て良かったと思って欲しくて……」

「だからと言って、そう極端なことをすることもあるまい」

「……」

「まぁまぁ。伯爵、お嬢さんも反省していますし、ね」


 ラシッドが渋い顔をしたカールを宥める。


「水を飲んでゆっくり休んだら、二日酔いは治まりますから。ここで寝ていくと良いですよ」

「はい……」

「ディマは私がホテルまで連れて行こう」


 そう言ってカールは立ち上がった。アデレードの愛犬は今、子ども達が楽しそうに世話している。


「ご迷惑お掛けして申し訳ありませんわ。伯爵、それに先生も」

「気にするな」

「調子の悪い人の相手をするのが、医者の仕事ですから」


 恐縮しっぱなしのアデレードに2人はさらりと答えた。



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