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第61話 おもてなし

 アデレードが手紙を読み終え、下に戻るとメグとクリスが夕食作りを始めていた。


「どう、順調かしら?」

「「はい」」


 2人は同時に返事をして、お互い少し照れたように笑った。クリスは父親が王都で料理人として働いていたらしく、自身も手際が良い。メニューもメグと一緒に相談して決めたようだ。


「親父が料理してる横で育ったんで、色々仕込まれました。まぁ、親父が亡くなったし、俺も道を踏み外したりで、半端なもんですけど……」

「こうやって働いてるんだもの、お父さんもきっと喜んでると思うな」


 メグの言葉にクリスが恥ずかしそうに首を振る。その様子を見てアデレードは微笑む。


「調理場は2人に任せておいて問題なさそうね。私は浴槽に水を貯めに行ってくるわ。おいで、ディマ」


 アデレードは裏口から愛犬を連れ外へ出て、裏庭にある井戸に向かう。桶を持って何往復かして浴室に水を入れておく。これで温めれば、いつでも入浴出来るだろう。


「あなたが手伝ってくれてたら良いのだけど……」


 水を運び終えて、ディマを見ながらアデレードが苦笑する。

 料理の支度を終え、マックスを呼び、食堂へ案内する。彼が席に着くと料理が運ばれてくる。


「おー美味しそうですね!」

「フルコース、とはいきませんけど……」

「とんでもない。僕はこういうの好きですよ」


 恐縮するアデレードにマックスは目を輝かせて運ばれてきた料理を見る。彼に提供したのは、自家製のパン、野菜を煮込んだコンソメのスープ、新鮮野菜のサラダ、メインの料理は川魚のフリッターに甘酸っぱいソースを添えたもの、デザートに野イチゴとプラムだ。


「どれもここで採れたものを使っておりますの。特に魚はとっても美味しいですわ。シンプルに塩焼きにしたものも、私は好きです。明日の朝はそうしましょうか?」

「えぇ、ぜひ。それも食べてみたいです」


 そう言ってマックスは早速川魚のフリッターを頬張る。

「上手い!フロイラインの言う通りですね。臭みも全然無いし、身はふわふわ。王都で食べるものとは全然違うなぁ」

「えぇ、私も初めて食べたときそう思いましたわ」


 村の東側に、山脈にある幾つかの小川が流れ込んで大きな川が流れている。そこから、美味しい魚が獲れる。


「では、ゆっくり堪能して下さいね」


 嬉しそうに食べるマックスの様子を、アデレードは見ながら微笑んで調理場へ下がる。そこで固唾を飲んで見守っていたメグとクリスと一緒に小さくガッツポーズを取る。


「やったわね!」

「喜んでもらえて良かったです」

「俺もほっとしました。じゃ、俺風呂焚いてきます」

「えぇ、お願い」

「私は、食後に飲む紅茶の準備しますね」


 アデレードが頷くと、2人は慌ただしく動き出す。アデレードはもぐもぐと食べるマックスの様子を壁際からそっと窺う。


 誰かが喜ぶ顔を見るのが、こんなに心躍ることだったなんて知らなかったわ。




 次の日、マックスの要望通り、朝食に川魚の塩焼きを出すと、それも美味しそうに平らげた。食後に熱い紅茶を飲みながら、満足気に呟く。


「昨日のお風呂も良かったし、勿論食事も。あ、そうだフロイライン、お願いがあるんですけど」

「はい。何でしょう?」

「僕、村の周りとか山の辺りを見て回りたいので、昼食は何か持ち運べるような形のものが良いんです。あ、その分の料金はちゃんと払いますから」

「分かりました。用意しておきますね」

「ありがとうございます」


 マックスは紅茶を飲み終えると、一旦部屋へ戻り、出掛ける準備を整えてから、ロビーにやってきた。


「マックスさん、こちら」


 チェックイン用のカウンターで待っていたアデレードが布の包みを渡す。


「中にはチーズと燻製肉を挟んだスティックブレッツェルが2つ入っていますわ。こんなもので良かったかしら?」

「えぇ、充分ですよ。では、行ってきます」


 マックスは包みを鞄に入れ、うきうきした様子で出かけて行った。庭の前で彼を見送ったアデレードと2人の従業員は、早速次の仕事に取り掛かり始める。


「えーと、次は部屋や浴室の掃除とシーツの交換と洗濯物を洗って干すこと。それと私達のお昼の準備しなきゃね」


 忙しくする3人を横目に、看板犬のディマは欠伸をしてのんびりと昼寝を楽しんでいた。




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