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第48話 家族

 それから一週間ほど経った頃、アデレードとメグ、というか主にメグの献身的な世話のお陰で、クリスも歩けるほど回復していた。


「すっかりお世話になってしまって……」


 食堂で昼食を食べながら、クリスが恐縮したように呟く。3食きちんと食べて、体力を回復した彼は、20代前半くらいの若者に見える。


「あら、良いのよ」

「そうですよ」


 アデレードとメグが安心させるように笑った。


「お二人や村の皆さんにも良くしてもらって……父から話を聞いた通り」

「えっ?」


 クリスが恥ずかしそうに話し出す。


「実は親父はこのリーフェンシュタール領の出身なんす」

「まぁ、そうなの?」

「親父、若い時に家出同然にここを飛び出して、王都に来たと言ってました。それでときどき懐かしがって、この土地のことを話してくれたんすよ。喧嘩して出て行った手前、帰り辛いって笑って」

「それで、リーフェンシュタール領に逃げて来たのね」

「意識したつもりはなかったんすけど……そうなのかもしれないっすね」

「それで、お父様は?」

「俺が14のときに亡くなりました。お袋はそのずっと前に……」

「まぁ……」


 クリスが少し寂しそうな顔をする。


「それで俺、荒れて悪い連中とつるむようになって、そこであの屋敷の仕事紹介されたんす」

「そうだったの……」

「それがまさか、こんなことに……」


 年若い者が都会で一人、頼る者もなく生活していくとなったら、さぞかし大変だったろう、とアデレードは彼の生活の大変さを思った。勿論、アデレードには具体的な生活模様は想像も出来ないが。


「あ、そうだっ。ご家族捜してみません?」


 メグが明るく提案した。


「え?」

「どういうこと?」

「だって、きっとクリスさんのお父さんのご両親とか兄弟は、きっとこのリーフェンシュタール領内に住んでますよね」

「けど、会いに行っても迷惑かけるだけなんじゃ……」


 戸惑うクリスにメグは自信ありげに頷く。


「そんなことありませんよ。きっと、会ってくれると思います」


 そこでまず、アデレードとメグは村の住民に協力を仰いだが、そこは田舎、あっという間に、クリスの祖父母の住んでいる家が分かった。北の集落にそれらしき人が住んでいるらしい。


「行ってみましょ」


 アデレードとメグ、そして犬のディマはクリスと共にそこへ向かった。リーフェンシュタール伯の邸宅群を通り過ぎた先に、もう一つ村があった。子ども達が遊んでいるのを見つけ、話しかけると、すぐにクリスの祖父母の家が分かった。


「本当に、良いんでしょうか……」


 クリスが家の前で躊躇ためらう。


「うん、きっと、いえ、絶対大丈夫です! 家族なんですから」

「えぇ、そうですわ」


 彼を励まし、その家のドアを叩く。すると、老夫婦が玄関から出てきた。突然の見知らぬ訪問者に、驚いた顔をする。アデレードとメグが事情を話しクリスを紹介すると、さらに驚いた顔になった。


「あの、おじいさん、おばあさん……」


 小声でクリスが話し掛ける。


「まぁ、あの子に目元がそっくりですよ、お父さん」

「あぁあぁ」


 2人は頷き合い、クリスの顔に息子の面影をさらに見つけようと近づく。震える手で彼の顔や腕に触れて、2人は溢れる涙を流す。クリスの目にも涙が光った。

 アデレードとメグはその様子を見て、微笑み合う。そして邪魔しないようにそっと、その場を離れた。


「私達、良いことしたのかしら?」

「そうですよぉ。クリスさんに帰る家見つけてあげられたんですから」


 メグのそばかすを散らした朗らかな笑みにアデレードも救われた気がした。


 帰る家か……いつか、私も両親にあんな風に喜んで再会出来る日が来るかしら。


「さて、何か変な事件に巻き込まれちゃったけど、家の改装再開しないと、ですわね」

「はい」


 わん、とディマも嬉しそうに吠えて、2人と愛犬は来た道を戻っていった。



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