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第41話 春の訪れ

 少しづつ暖かい風が吹き始める。雪はまだちらつく日もあるが、それでも少しずつ積雪は減ってきていた。


「何だか季節が変わっていくのが分かりますわね」


 アデレードはディマを散歩させながら一人ごちる。雪が多いときは、遠くまで行けなかったが、これなら村の方になら行けそうだ。林の中を歩いていると、子ども達のはしゃぐ声が聞こえてきた。

 雪が少なくなって子ども達も外で元気に遊びまわっているようだ。ディマがはち切れんばかりに尻尾を振り、子ども達のもとへ走っていく。


「もうディマったら」


 アデレードはしょうがないわね、という表情で村まで歩いていく。子ども達に撫でられ、畑の中を一緒に走り回るディマをアデレードが微笑ましく見守っていると、畑の端で12、13歳くらいの少年が一人、座って何か描いているのを見つけた。小さな子ども達がその少年の周りに集まってきている。アデレードも好奇心をそそられ近づいてみる。


「あ、ディマのおねぇちゃんだ」


 子ども達の間ではすっかりその呼び名が定着していた。


「みんな、おはよう」

「見て、テッドはとっても絵がうまいんだよ」


 女の子に誘われ、絵を描いている少年の後ろから覗き込む。板の上に白い紙を置き、子ども達が遊んでいる姿を、画面いっぱいに素早い勢いで描いている。どの子どもも生き生きと躍動する様子で、アデレードは感心した。


「まぁ、本当にお上手ね」


 聞きなれない女性の声に驚いて、とび色の髪をした少年が振り返る。


「あ、ごめんなさいね。邪魔してしまった?」

「いえ……」


 テッドと呼ばれた少年は少し気恥ずかしそうに首を振った。


「どこかで絵を習っていたの? それとも教えてくれる人がいるの?」

「いいえ、誰からも習ってないです」

「えぇっ、それでこんなに描けるなんてすごいわ」


 アデレードが素直に感想を言うと、テッドはさらに恥ずかしそうにたじろいだ。


「知らない人間にじろじろ見られたら描き辛いわよね。お邪魔しちゃったわ」


 その様子を見て、アデレードは苦笑いして絵から視線を外し、顔を上げると山へ続く道を、弓を携えた10人程の男達の姿が見えた。


「伯爵?」


 その狩人の一団の中にカールが居た。彼の姿を見るのはあの吹雪の日以来だったので、アデレードの顔が自然と綻ぶ。子ども達と共に近づくと、同じく一団の中に居たゲアハルトが軽く手を上げた。


「おう、嬢ちゃん達」

「おじちゃん達猟に行くの?」

「春になったからな、熊狩りだ」

「熊狩り?」


 アデレードが尋ねる。


「あぁ。冬眠明けの熊は手も爪も伸び切ってて商品価値が高いんだ。しかも、胆のうにも胆汁がたっぷりで、上質なきもが手に入るってわけだ。これがまた高く売れるんでね」

「まぁ、そうでしたの。伯爵もご一緒に?」

「あぁ、一番最初の熊狩りだからな」

「特別、というわけですのね」

「そうだ」

「でも今日は冬の時とは違いますのね? 若い方も居ませんし」


 カールと一緒にいるのは、ゲアハルトを始めとする経験と実力を備えた猟師ばかりだ。


「熊狩りは危険だからね。言うても鹿や兎のようにはいかんよ。仕損じれば、こっちが死ぬかもしれんから」

「まぁ……」


 猟師の説明を聞き、アデレードが不安げに口に手を当てる。


「気を付けて行ってきて下さいね」


 心配そうな顔を見せる彼女に、カールは安心させるように頷く。その様子を見ていた猟師達はちょっとだけニヤニヤした。


「熊取ってきてねー」


 アデレードと子ども達に見送られ、狩りの一団は山の中へ入っていった。テッドは、その様子を熱心に写し取っている。

 リーフェンシュタール領に春が来たのだ。



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