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第40話 おんせん……?

 

「皆さん、お疲れさまでしたわ」


 雪かきを終えたカールとゲアハルト、それに犬と戯れていたラシッドはアデレードの家の中で、紅茶と昨日カールから貰ったアップルパイを振る舞われていた。ディマは散々遊んで満足したのか眠そうに欠伸をする。


「お嬢ちゃん、甘い菓子も良いけど、酒ねぇのかい?」

「お酒……料理用に使う白ワインならありますけど」

「おう、それで良いや。持ってきてくれるかい?」

「えぇ」


 アデレードが台所から白ワインと杯を持ってきて、ゲアハルトの前に注ぐ。


「本当にお酒が好きなんですねぇ」

「俺の燃料だからな」


 呆れるラシッドを他所にゲアハルトはぐぃっと白ワインを飲み干した。


「そう言えばお嬢ちゃん、ホテル始めるんだって?」

「えぇ、そうですわ。と言ってもそんな大層なものでもありませんけど。今はその計画とか必要な物をリストアップして揃えようとしているところですの」

「へー、じゃぁ温泉を用意すると良いぜ」

「……おんせ、ん?」


 アデレードは聞きなれない言葉に小首を傾げる。


「お、知らねぇのかい? 地面から熱い水、まぁお湯が出てくるんだな。それを温泉って言うんだ」

「地面から水でなく、お湯が……?」

「そうだ。ここの領内でも湧いて出てくることろがあるんだろ、伯爵?」

「まぁ、あるにはある」


 ゲアハルトの問いにカールは頷いた。


「温泉があったら宿の良い目玉になると思うんだがなぁ」

「確かに。温泉には色々効能があると言いますからね。湯治に来る客も見込めるようになるかもしれません」

「とうじ?」


 またしてもアデレードの知らない言葉だ。


「関節痛や腰痛なんかを温泉に浸かりながら療養する、治療法の一つと言ったところでしょうか」

「なるほど。勉強になりますわ」

「しかし、領内のどこを掘っても出てくるわけではないぞ。当然、ここの庭を掘っても出てこないだろうしな」

「問題はそこなんだよな~」

「この辺りで温泉が出るのはフュンフドラーヒェン岳の周辺だけだ」

「フュンフドラーヒェン岳? どこですの?」

「ここから少し南にある山のことだ。山脈の中の一つの山だが、初代のリーフェンシュタール伯がその山に巣くう、火を噴き、大地を揺らし、森を焼き、有毒な煙を出し、巨大な岩を落とす5匹の竜を地の底に鎮めたという伝説の残る山だ」

「それで(フュンフ)ドラーヒェン岳というわけですか」

「本当に竜が住んでいるんですの?」


 アデレードは目を丸くし、カールは肩をすくめた。


「さぁ……誰も見たことはないからな」

「神秘は遠くになりにけり、だなぁ」


 ゲアハルトが遠い目をする。


「ま、温泉は置いとくにしても、客用の風呂とかはあった方が良いと思うぜ」

「どういうことですの?」

「ま、要するに自分達のスペースと客が使うスペースは完全に分けろってことだ。貴族のお屋敷でもそうだろ。使用人と主人じゃ、寝るところも食うところも別じゃないかい?」

「言われてみれば、そうですわね」

「ましてや、お嬢さんもメグさんも若い女性ですから。その辺はちゃんと区切った方が良いでしょう」

「その辺りのこと、全然考えていませんでしたわ……」


 しゅん、と気を落とすアデレードに、カールが慰めるように声を掛ける。


「どうするかは、これから考えれば良いさ。冬はまだ続いているからな」

「お熱いねぇ」


 揶揄からかうようにゲアハルトが口笛を吹くと、途端にカールの顔が険しくなる。

 3人はアデレードの家から帰って行ったが、道中カールは年上の2人から散々弄られたが、屋敷に戻ってからは執事からも曰くあり気な笑みで迎えられ、彼の顔はさらに渋く険しくなった。



 アデレードは3人を見送った後、先ほど言われたことをメモし始める。


「温泉、湯治、区切り……メグに相談することが増えたわ。それにアップルパイも食べてもらいたいわね」


 最後の一切れになったアップルパイを見て、アデレードは微笑んだ。



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