第39話 からかわれる2人
「では、そろそろ帰らないとな。世話になったフロイライン」
「いえ、そんな。朝食だって作らせてしまったのに」
アデレードとカールが朝食を食べ終え、玄関のドアを開けようとした時、誰かが玄関のドアを叩く音がした。
「今度こそ、メグかしら?」
アデレードがドアを開けると、立っていたのは防寒着を身に着けた医者のラシッドと猟師のゲアハルトだった。
「あらっ」
意外な人物達の訪問にアデレードは驚きの声を上げる。
「おう、お嬢ちゃん……それに伯爵?」
そこでゲアハルトはあっと気が付いた。ここまで来るのに降り積もった新雪を除け、踏み固めて来た。当然誰の足跡もついていない。つまり。
「ははぁ……先生、俺達どうやらお邪魔だったみたいだぜ」
「えぇ、確かに。お若い2人のお愉しみを妨害してしまいましたねぇ」
「そういう関係なら早く言ってくれれば良かったのになぁ」
ゲアハルトとラシッドはわざとらしく会話し、ニヤニヤした。
「何を言っているんだ! フロイライン・アデレードに失礼だろう」
カールが2人を睨むが、あまり効果はない。
「そ、そうですわ。昨日吹雪が酷くて……伯爵は帰るに帰れなくなっただけですっ。お、お愉しみなんてありませんから!」
アデレードも顔を赤くしながら反論するが、2人はニヤニヤしっぱなしである。
「それで、どうして2人がここに?」
呆れながらカールが尋ねる。
「あぁ、メグんとこに頼まれてな。昨日、雪が酷かったから、雪かき手伝ってやってくれって」
「ま、まぁ、そうでしたの。それは、有難いですけれども……」
アデレードはまだ動揺を抑えきれない。変なことを考えていたのは事実だからだ。
「良いってことよ。ワイン一本付けてくれるって言うしな」
「私はアルマさんの様子見に来たついでに、ゲンさんに連れて来られました」
「それは大変だったな」
「でもまぁ、伯爵がいらしたなら我々は必要なかったかもしれませんねぇ」
しみじみとラシッドが呟くのを聞き、カールの顔がさらに険しくなる。顔の傷と相まって、人を怯ませるには充分だが、この2人には効かない。
「まだ言うか……」
「まぁまぁ、照れなさんなって」
「そうですよ。誰にも言いませんから安心して下さい」
「まったくっ」
色々言いたい事はあったが、言っても揶揄うのを止めないと思ったカールは溜め息を吐くだけにした。
「これ以上邪魔しちゃ悪いから俺達は帰るか」
「それが良いですね」
2人はアデレードとカールに背を向けるが、カールは2人の肩をがしっと力強く掴み、凄みのある笑みを見せた。
「ワイン一本分の働きはしてもらおうか」
「おい、ワン公、俺に雪を掛けるなよ」
アデレードの家の周りの雪かきを始めたカールとゲアハルトの真似をして、ディマが新雪を前足で掘り返す。その雪が傍にいたゲアハルトにもろに当たってる。
「ディマは手伝っているつもりなのですわ」
2人の作業を見守りながら、アデレードが苦笑いする。
「ほーら、ディマ。これを取っておいで」
ラシッドはそう言って、積まれた薪から一本手に取って、雪の中へ投げる。それをディマが喜んで追いかけていく。
「てか、先生は手伝わないんですかい?」
「えぇ。手伝いを頼まれたのはゲンさんですからね。それに私はお二人と違って、肉体労働は苦手ですから。ディマと遊びながら、お嬢さんと一緒に待っていますよ」
「そりゃ、ずるいぜ先生ぇ……」
恨みがましくゲアハルトが睨むが、ラシッドは涼しい顔でディマが嬉しそうに拾ってきた薪をまた雪の中へ放った。




