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第33話 伯爵の贈り物 下

「伯爵?」


 ここに来るまでの経緯を思い出していたカールにアデレードが声を掛ける。


「いや、たまたま君の誕生日を知る機会があっただけだ。気にしないでくれ」

「はぁ……」


 アデレードは納得したようなしていないような顔をした後、はっとした。


「あ、お寒いですよね。ごめんない、中へどうぞ」


 アデレードはカールを談話室に招く。暖炉に火が付いており、寒さの中を歩いて来たカールのかじかんだ体を暖める。談話室の机に、編みかけの何かがあった。


「これは?」

「その……メグから編み物を習っていて、とりあえず綺麗に編むための練習をしておりましたの……」

「なるほど」


 その編み物は編み目が奇妙に空いていたり、逆に目が詰まり過ぎていたりと、歪な出来だった。その不器用な様子にカールは微笑ましく思い、笑ってしまった。


「こ、これのことは良いのですっ」


 アデレードは顔を真っ赤にして、サッと編みかけの作品と毛糸と棒を胸元に隠すように抱く。

 何せ、この前メグの家族と一緒に編み物の練習をした時に、一番下の8歳の妹より酷い出来だったのだ。まだまだ人に見せられるものではない。メグの家族は、慣れれば出来るようになりますよ、と一生懸命励ましてくれたが。


「君らしくて良いと思う」

「それは……どういう意味ですの?」

「めげないところかな?」

「どうせ、私は不器用ですっ」


 アデレードはぷいっと顔を逸らした。カールとこうやって過ごすのも久しぶりで嬉しいのに、恥ずかしい出来の編み物を見られ笑われた恥ずかしさで素直になれない。


「これで、機嫌を直してくれると良いが」


 カールは苦笑いし、持ってきた荷物を机に置く。


「一体何をお持ちになられたの?」


 興味を惹かれ、アデレードは横目にそれを見る。


「これは私から、というか執事からというか、作ったのは厨房の者だが……」

「?」


 カールは布の包みを開く。


「まぁ、つまり誕生日の贈り物だ。この寒さで冷めてしまったが」

「まぁ……アップルパイ」


 カールが持ってきたのは、見事な円形の、美味しそうに飴色に光る、香ばしそうなアップルパイだった。


「美味しそう……」


 アデレードはうっとりしながらアップルパイに近づく。


 まさか、伯爵が誕生日を祝ってくれて……その上贈り物まで頂けるなんて。


「伯爵、ありがとうございます!」


 喜びに溢れた笑顔をカールに向ける。機嫌はすっかり良くなったようだ。その輝く笑顔にカールは我知らず目を細める。彼自身もまた、彼女の笑顔に絆されているようだ。


「君が今まで貰ってきた物に比べればささやかな物だが、喜んでくれてくれて私も嬉しい」


 カールの言葉にアデレードは首を振った。


「そんなことありませんわ。私、お茶淹れます。さっそく頂きましょう」


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