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第32話 伯爵の贈り物 上

 アデレードは家に戻り、静寂の中で溜め息を吐いた。最近はずっと2人と1頭の生活だったので、寂しい気がする。


「何だが静かね、ディマ」


 静まり返った家の中で、アデレードはふと思い出した。今日が自分の誕生日だったことに。

 毎年、家族と友人が集まり、盛大に祝って貰っていた。その様子はまさに真冬に咲いた花の如く煌びやかであった。


 王子にも毎年、美しい宝石を贈って頂いていたわ……今年とは大違いね。


 アデレードがぼんやり以前の生活を思い出していると、ディマがじゃれついてきた。


「あら、祝ってくれるの?ディマ」


 彼女は笑って、ディマを撫でると気持ち良さそうに目を閉じる。


 少なくとも1頭は私のこと祝ってくれるわね。それで充分。


「さて、メグが居ないと改装の相談も出来ないし、編み物の練習でもしようかしら」


 アデレードが静かに編み物をしていると、またしてもドアを叩く音がした。ディマが尻尾を振り、嬉しそうにドアへ向かっていく。


「誰かしら……もしかしてメグ?」


 アデレードがドアを開ける。


「どうしたのメグ、何か忘れ物でも……」


 したの?、と続けようとして、目の前に立っているのがメグではなかったので、アデレードは固まってしまう。そこにいたのは手に布にくるまれた荷物を持ったカールだった。


「は、伯爵?」

「あ、あぁ、息災にしていたか?」


 カールもアデレードの顔を見てぎこちなく答える。1ヶ月以上会っていなかったので何となく気恥ずかしさと気まずさが綯い交ぜになっている気分だ。


「は、はい、元気に過ごしておりますわ。今日はどうされました?」

「いや、今日はフロイラインの誕生日だろう?」

「そうですけど……どうして伯爵が私の誕生日をご存じで?」

「……」



 話は少し前に遡る。

 執務室で仕事をしていたカールに、執事が休憩がてら紅茶と菓子を持ってきた。


「最近、フロイライン・アデレードにお会いに行きませんね?」

「何だ急に……」

「いえ、お寂しいのではないかと思いまして」


 カールは、何を変なことを言ってるんだ、という目で執事を睨むが、彼は涼しい顔を崩さない。


「フロイラインは村の住民達と上手くやっているようだし、心配することもないのだから、会いに行く必要はない」

「そうでしょうか?知っていましたか、今日はフロイライン・アデレードの誕生日なのですよ。お祝いに行って差し上げてはいかがです?」

「村人達に祝われてるかもしれないだろう。私がわざわざ行かなくとも……」

「それなら、一言お祝いに行くのも別に構わないのではありませんか?」

 執事の言葉に渋面になるカール。


「特に渡す物も用意していないし、やはり……」

「僭越ながら、この私めが用意させて頂きました」


 こほんと執事が改まって咳払いした。


「……」

「もうすぐ出来上がると思いますよ」

「出来上がる、とは……まぁ、良い。ところで、どうしてフロイライン・アデレードの誕生日を知っているんだ?」

「おや、あの方がこちらに住み始めたときに身元を調べるようにお命じになられたではありませんか。ちなみに、この前同じく調査をお命じになったロイドさんのお誕生日も存じておりますよ、5月の……」

「いや、あいつの誕生はいい」


「せっかく誕生日の贈り物も用意しましたし、フロイライン・アデレードに届けに行って下さいまし」


 そう言って執事はにっこりと笑った。


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