第29話 アデレードの決意
「また雪が……」
朝散歩に出ようとドアを開けた、アデレードが呆然と呟く。ここ最近、雪かきしては次の日また雪が積もっている、というのを繰り返していた。
「こういうもんですよ、お嬢さん」
メグが苦笑いした。
「降ってはどける、これがここの普通です」
「そうなのね……」
「とりあえず、今日も家の周りだけでも雪かきしましょう。じゃないと、雪に埋もれて家から外へ出られなくなっちゃいますから」
「分かったわ。外に出られないと散歩にも行けないものね。ねぇディマ?」
尻尾を振って、わふっとディマが答えた。女2人ではなかなか骨の折れる作業だが、ディマが2人の真似をして方々を掘り返すのが可愛くてほっこりした。
ディマも手伝ってるつもりなのね。
あの日以来、カールには会っていない。1ヶ月程経っているだろうか。
雪かきを終え、アデレードとメグは紅茶を淹れて一息つく。今は晴れているが、そのうちまた雪が降るだろう。アデレードは台所で白に覆われた外を眺める。
これは大変だわ。
アデレードは溜め息をついた。王都にも雪は降ったが、毎日ではないし、こんなに降り積もることもない。雪の少ないところから来た者には辛い作業だ。
伯爵のお母様がこんな作業をしたとは思えないけど……。私はここで生きていくと決めているわ。おそらく伯爵のお母様だって始めはそう思っていたはず。けれど去ってしまった。
だから伯爵は、貴族の、都市から輿入れする女性を選ぶのを躊躇っている。いつかここを出て行ってしまうかもしれないから。
そこでアデレードははっとする。
……もしかして、私もそう思われているのかしら? あり得ますわ。王都から来た貴族の女。ばっちり私のことですわ。つまり、私がここでしっかり根を張って生きていく姿を見せれば、伯爵もきっと結婚に前向きになられるはず。
私、証明してみせますわ。
その結果、カールが別の誰かと結婚するという結末が待っている、という事実と痛みをアデレードは考えないようにした。
そうなるとやはり、マックスさんがおっしゃっていた案を真剣に検討すべきだわ。
「ねぇ、メグ。ちょっと相談というか、考えてることがあるんだけど」
「なんでしょう?」
「実は、この家の空いてる部屋を使ってホテルをね、始めてみようと思うの」
アデレードの言葉にメグは目を瞬かせる。
「駄目かしら?」
「とんっでもない!」
メグはぶんぶんと思い切り首を振った。
「それってすっごく素敵なアイデアと思いますっ」
「そ、そうかしら……」
瞳を輝かせるメグに却って気後れするアデレード。
「でも、そうしたいって思っているだけで、まだ具体的には何も決めていないのよ。それに、”私”がやっていると知ったら誰も来ないかもしれないし」
「どうしてお嬢さんと知られると人が来ないんですか?」
「えーと……」
首を傾げるメグに、それを話すのは気が引けたが、説明しない訳にはいかない。
「かい摘まんで話すとね……」
アデレードは自分にはかつて親が決めた婚約者がいて、その婚約者に真に愛する恋人が出来たから破談になったこと、その際、自分が相手の女性を罵り、脅し、そして舞踏会で醜態を晒してしまい、家族からも見放されこの家に置いていかれたことを説明した。
「今思えばどうかしてたと私も思うのだけど……どうしても受け入れられなかった、許せなかったの」
アデレードはメグの反応を見る。呆れらてしまったかもしれない。しかし、メグは慰めるように優しい顔をした。
「お嬢さんは、その方のこと本当に愛してらしたんですね」
「え……」
「だって、何とも思っていない相手なら、婚約の破棄だってすんなり受け入れられるじゃないですか。どんなに見苦しくても、離れたくなかったんですよね?」
「それは……」
果たして、本当にそうだろうか。私は王子を愛していたかしら……。
「それにしても、お嬢さんのご家族は酷いと思います!」
ぷりぷりと怒るメグにアデレードは苦笑した。
「この話はもう良いわ。つまり私は世間の嫌われ者ってことなの」




