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第27話 祝宴の余韻

 次の日、アデレードは酷い顔で朝を迎えた。昨日家に帰ってきてから一睡も出来ないからである。


 伯爵との密着、奪われるという言葉、吐息、熱さ。一体あれは何だったの? 伯爵は何を考えてらっしゃるの?


 ぐるぐると祝宴での出来事が頭の中を巡る。いくら考えても答えなど出るわけもない。


 浮かない顔で、アデレードは階下へ向かう。




 一方、カールも執務室の椅子に座りながら両手で眉間を押さえていた。そこへ年配の執事が入ってきて、机に水の入ったカップを置く。


「大丈夫ですか?」

「……」


 大丈夫ではなさそうだ。カールは宴会で領民が杯に注いでくれるままに、酒を飲み続けていたからである。


 領主たる者、領民が勧める酒を断るわけにはいかんのだ。


 という訳で、カールは今絶賛二日酔い中だった。しかも、昨夜の記憶も途中から曖昧である。何を言われ、何を言ったのか、ほぼ覚えていない。

 思い出すのは、同じく良い気分で酔っぱらっている村人達、料理や飲み物を忙しなく運ぶ使用人達、そして驚いた顔をしていたアデレードの顔。


「私はフロイラインに何を言ったのか……」

「おや、覚えていらっしゃいませんか?」


 カールは心の裡を無意識に口に出していたようだ。私も聞こえていたわけではありませんが、と前置きして執事が続ける。


「カール様が何やら紳士らしからぬ振る舞いをなされて、フロイライン・アデレードはそのまま帰ってしまわれましたよ。顔が赤かったのでずいぶん怒ってらしたかもしれませんねぇ」

「……見ていたなら止めてくれ」

「私もお客様のお世話がございましたので」


 執事にぬけぬけと言われ、カールは苦虫を噛み潰したような顔になる。


「それで、紳士らしからぬ行動とは何だ?」

「私が見たときには抱きついていましたかな、フロイラインに」

「っ……」


 カールは唖然とした表情になる。


 昨夜の自分は一体何をしたのか?


 彼は頭を抱えた。


「フロイライン・アデレードに謝らねば……」


 頭痛と吐き気と気分の悪さを押して立ち上がろうとする。



「そんな状態で行ってどうなります。フロイライン・アデレードの前で吐いたなんてことになったら、眼も当たられませんよ。しっかり治まってから行って下さい」

「……」


 執事の尤もな意見にカールは無言で水を飲み干す。


「もう一杯持ってきてくれ」




 日中何もする気が起きず、いたずらにディマと戯れ時間を潰す。メイドのメグも疲れているのか、動きに精彩がない。結局2人とものんびり過ごしていたが、夕方ディマに散歩をせがまれ、アデレードは外へ出た。

 夕暮れにちらちら雪が舞う。本格的に降り始める前に帰って来ようと思い、家の周りでディマを走らせていると、村へと続く道からカールがやってくるのが見えた。


「えっ?」


 驚いて固まるアデレードの隙をついて、カールを見つけたディマが嬉しそうに走り出した。


「あ、ちょっと、ディマッ」


 アデレードは後を追おうと思ったが、昨日の今日でどんな顔で会えば良いのか分からない。戸惑っていると、カールの方がディマを連れて彼女のところまでやってきた。


「あの、伯爵……こんにちは」


 どこを見て良いのか分からず、アデレードは視線を彷徨わせる。見つめてしまったら昨夜の熱さが甦ってしまいそうだからだ。


「あぁ、今散歩中か?」

「はい」

「そうか……」

「……」


 2人の間に気まずい沈黙が流れる。カールが雰囲気を変えようと軽く咳払いをした。


「少し話がある。一緒に散歩について行っても良いかな?」



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