第23話 雪遊び
「うぅ……寒い」
アデレードはベッドの中で丸まる。ディマがシーツを鼻で剥ぎ、アデレードの顔をベロンと舐めた。
「ディマ……」
アデレードが抵抗するようにシーツを被る。負けじとディマがシーツに潜り込み、ベロベロと彼女の顔を舐め続ける。
「分かった、分かったわ。起きるから……」
根負けしてアデレードが体を起こし、震えながらベッドから降りる。
「今日は一段と冷えますわね」
足元から芯から凍えるような冷気が漂ってくる。アデレードが窓へ近づきカーテンを開けると、晴れてはいたが外はうっすら雪が積もっていた。最近ちらちら雪が降る日があったがついに積もったのだ。
「まぁ……道理で」
アデレードは服を着替え、ディマと一緒に下へ降りていくと、メグが朝食の準備を始めていた。
「おはよう、メグ。いつも早いわね。私は全然起きられないわ」
「おはようございます、お嬢さん。もっとゆっくりしてても良いんですよ」
「そういうわけにもいかないわ」
そう言って、アデレードはディマの背を撫でる。愛犬の散歩に行かなければならないからだ。彼女はカールに買ってもらった防寒着を付けて外に出た。嬉しくて我知らず心が躍る。
ドアを開けた瞬間、凍てついた風が吹き付けてきた。木の枝も大地も何もかも白い。それはそれは美しい、絵画のような風景だ。
アデレードは身を縮ませながらも、その魅力的な光景の中へ歩を進める。
誰も踏んでいない真っ新な雪の上を歩くと、アデレードの足跡がくっきりと残る。それが何だか楽しくて庭をディマと一緒に歩き回った。その後、村の方へ歩いていく。木立の間を抜けると子ども達の騒ぐ声が聞こえてきた。雪に埋もれた畑の中を走り回ったり、雪を投げ合ったり、雪だるまを作ったりしている。ディマがその声に誘われるように走り出した。
「あっ、ディマ」
アデレードが後を追うが、犬の速さに敵うはずもない。どんどん離れて畑へ入っていってしまった。
「わんちゃんっ」
「ディマだ」
子ども達は走り寄ってきたディマに嬉しそうに触り始める。村の人々にとってもディマはすっかり馴染んでおり、よく撫でてもらったり、こっそり餌をもらったりしている。
「あ、ディマのおねぇちゃんだ」
愛犬を追ってきたアデレードの気付き、子ども達の一部が近づいてきた。ディマは既に他の子ども達と一緒に走り回っている。
「おねぇちゃんも一緒に遊ぼっ」
「えっ」
子ども達がアデレードの腕を引っ張って、道から畑まで連れていく。戸惑うアデレード他所に、子ども達は雪を集め、雪合戦をし始めた。アデレードの体に次々雪がぶつかってくる。痛くはないが、アデレードは驚いた。深窓の令嬢だったアデレードにとってこんな風に遊んだ経験は皆無だったからだ。
勿論子ども達はアデレードが公爵令嬢だった過去など知らないし、関係もない。
「まぁ……」
アデレードも見よう見まねで雪を集め子ども達に向けて投げる。きゃっきゃと賑やかに子ども達が歓声を上げた。アデレードはしばし童心に帰り、無邪気に子ども達と戯れる。雪に塗れ、息も絶え絶えになった頃、子どもの一人が叫んだ。
「あー伯爵さまだー」
「えっ?」
子どもが指を差した方にアデレードが振り返ると、カールが道のところでこちらを見ていた。子ども達はわいわいとカールへ手を振っている。彼女の顔が真っ赤になる。
あぁ、また伯爵にひどい姿を見られてしまったわ。これで何度目かしら……。
伯爵はアデレードのもとまで近づき、その姿を見て可笑しそうに目を細めた。
「楽しそうだな、フロイライン」
「いつから見てらしたんですか……」
アデレードは恥ずかしそうに、急いで体についた雪を払う。
「良い笑顔だったと思うが」
「……それ以上言わないで下さいまし。どうせ、子どもっぽいと思ってらっしゃるのでしょう?」
そう言って照れを隠すように彼女はぷいっと顔を背ける。
「そんなことはないさ」
「伯爵さま、今日はどうしたの?」
「少し相談に」
子どもの質問に、尻尾を振って近づいてきたディマを撫でながら答える。
「相談?」
「そう、冬狩りが近いからね」




