第17話 お手伝いさん探してます
その夜、アデレードはベッドに腰掛け、カールとマックスに言われた事を考えていた。
人を雇うこと、使われていない部屋を活かすこと。
「どうしたら良いのかしら……」
腕を組みながらアデレードがうーんと唸った。ディマはベッドの上で眠そうに欠伸をしてころん、と横になった。
アデレードとしても、人を雇うのは必要だと思う。
雇うというよりも、お手伝いに来てもらうって言った方が正しいわね。
「まずはそこから始めましょう。伯爵のおっしゃる通り冬は相当に厳しいようですし。ホテル云々は脇に置いておくとして、人に来てもらうにも誰にどう頼めば良いのかしら?」
それに、来てもらうにしてもどんな方が良いかしら? ディマは居るけど女一人ですし、同性が良いわね。年はどうしよう……経験のある年嵩の人が良いかしら、それとも体力のある年の近い若い方が良いのかしら?
「うーん、村の人に相談してみた方が良さそうですわね」
次の日、アデレードはディマと共に、散歩がてら村の方へ向かった。彼女の家から村までは少し離れているので、木立の中を歩いていくのは心地よい。
もう、ここまで紅葉が始まっているのね。
赤や黄色に染まる木々を見ながら、アデレードは思わず笑んだ。
シャレーと呼ばれる木造の三角屋根の家々が並ぶ村の風景は、都市とは違ってアデレードには新鮮に映る。立ち並ぶ家の一つに女性達が集まって、庭で何か作業している。アデレードはそれを見つけ声を掛けた。
「皆さま、ごきげんよう。集まって何をなさっているのですか?」
「あら、お嬢さん。散歩かい? これは軒先に吊るすように野菜を縛っているのさ」
「軒先に吊るす?」
「あぁ、乾燥させて冬の間の食料にするのさ」
「まぁ、そうですのね」
作業する手を止めて女性達はアデレードの方へ近づいてくる。
「それで今日はどうしたんだい?」
「何か困ったことがあったのかい?」
「あぁ、いえ。その、実は伯爵から提案されて……どなたか私の家の家事など手伝ってくれる方を探そうと思ってますの」
「そうだったのかい?」
女性達が顔を見合わせる。その内の一人がぽんっと手を叩いた。
「それなら、お嬢さん。うちの娘はどうだい?」
「アルマさんの娘さん……メグさんのことかしら?」
「あぁ、そうさ」
アルマとメグ母娘はアデレードの家の手伝いや差し入れなどを持って度々訪ねてくる、アデレードにとっても親しみを覚える人々だ。
「今、伯爵のお屋敷は人募集してないからねぇ」
「外へ働きに行かせるのは心配だし、お嬢さんのところなら近いし、安心だわな」
「そうしてもらえないかい、お嬢さん?」
村の女性達がうんうんと頷き合う。
「私は構いませんわ。メグさんがよろしければ、ですけど」
「大丈夫ですよぉ。ちょっと待ってて下さいね」
そう言ってアルマは家の中へ入って行った。少しすると、アデレードと同じ年頃の女の子を連れてアルマが戻ってきた。その女の子こそメグで、茶色の髪をポニーテールにした明るい感じを受ける、鼻の辺りにあるそばかすが何ともチャーミングな子だ。
「あの、お嬢さん。わたしを雇ってくれるって本当ですか?」
メグは上目使いにアデレードを見る。半信半疑なようだ。
「えぇ。貴女さえ良かったら」
「本当に良いんですかっ」
安心させるようにアデレードが頷くと、メグの顔がぱぁっと明るくなった。
「ありがとうございます! 私、この村から出ていかなきゃならないのは嫌だったんです」
彼女はアデレードに抱きつかんばかりに喜んだ。




