第10話 密猟者現!?
「ディマ、散歩に行きましょう」
アデレードが家の改修を始めて3週間程経った頃、彼女は子犬のディマを散歩させるため、近くの放牧場に向かって歩き始めた。
リーフェンシュタール伯爵領は東と西の二つ山脈に囲まれた南北に長い盆地のような地形で、特にアデレードの家に近い西側の山脈はまるで壁のように高く巨大な山塊である。その為、耕作地を広げることが出来ない。その代わり比較的なだらかな斜面を開拓して放牧地を作り、羊や牛、山羊などの家畜を飼うようになった。冷涼な気候のリーフェンシュタール領は牧畜に向いていたのである。
アデレードの家からも少し南へ山を登れば、そうした開けた牧草地があった。家畜達が草を食みながら、のんびり過ごす風景はのどかな田舎風景そのものである。そこへ朝ディマを連れて散歩に行くのが彼女の日課となっている。
そこへ村人の男性が山の方から降りてきていた。
「おや、お嬢さん。散歩かい?」
「はい。少し先の放牧地まで」
「そうかい。気を付けておくれよ」
「気を付ける?」
「そうだよ。この時期は密猟者が出やすいんだ。今も見回りをしてたところでねぇ」
「密猟者って、動物の毛皮や何かを狙ってたりする?」
「何も動物ってだけじゃないさ。茸や山菜何かを狙ってくる連中もいる」
「まぁ、そんなものまで……」
「そうさ。山の中には貴重な山菜とか香りの良い茸とかあるからね。都市の方ではそういうのが高く売れるらしいって話だ。もし、変なヤツがうろうろしてるのを見つけたら、すぐに教えてくれよ」
「分かりましたわ」
アデレードは神妙に頷く。
「当たり前だけど、リーフェンシュタール伯爵領内で猟が出来るのは領民だけだ。でも、いくら見回りを強化しても広大な山の中を取り締まるのはどだい無理な話でね。伯爵様も頭を痛めているよ」
「そうでしたの……」
「お前さんも不審なヤツを見つけたら捕まえてくれよ」
男性はそう子犬のディマに語りかけると、分かっているのかいないのか、ワンとディマが吠えた。男性と別れ、林の中を歩く。紅葉が進み、大地には落ち葉の絨毯が広がっていて、歩く度に、かさかさと音が鳴る。
それが面白いのかディマは落ち葉の中を走り回ったり、鼻を突っ込んだり、寝転んだりしている。その様子をアデレードは微笑ましく眺めていたが、そのディマが急に耳をぴんとそば立てて激しく吠えながら、走り出した。子犬らしい甲高い鳴き声が林の中に木霊する。
「ディマ、どうしたの? 待って」
アデレードは慌ててディマの後を追って走り出す。少し行ったところで、落ち葉を踏みしめる音と人の声が聞こえてきた。
「うわっ、この犬どこから?」
ディマがけたたましく吠えたてている人物は見たところ、金髪を短く刈り込んだ若い男で着ている服は所々土で汚れている上、背中には大きな鞄を背負っていた。
そこでアデレードはピンときた。
きっとこの人、先ほど聞いた密猟者なんだわ。伯爵や領民を悩ませるなんて不届き千万ですこと。何とかしないと。
彼女はそう思い、足元を見回す。持つのに丁度良さそうな長さの折れた枝を拾い上げ、両手に握り構える。そして男に近づき、大声で呼びかける。
「こんなところで何をしているのっ!」
「えっ……きみは……?」
「茸の密猟してるんでしょう! お止めなさい!」
「いや、ちがっ……」
アデレードは男に向かって乱暴に木の棒を振り回す。
「えぇっ、ちょっと危ないですってっ。僕は密猟者なんかじゃなくてですね……」
「言い訳は聞きませんわっ!」
「おわっ!? ……あー……」
アデレードに追い回された男は足を滑らせて、ずるずると斜面を滑り落ちていく。
「あら、まぁ」
「はぁ、フロイライン・アデレードが密猟者を捕らえた?」
しかも、その際アデレードはその密猟者と格闘したと報告を受けて、カールは思いっきり渋面になった。話の奇怪さに彼は状況がいまいち飲み込めない。
一体どういうことなんだ? 何でこう次から次へとフロイライン・アデレードは極端なことをするんだ……。
カールは頭を抱えながら、部下を連れて村へ向かった。




