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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

婚約破棄されたので、真実の愛を応援してみました。

作者: こうじゃん



 王立学園の卒業パーティー


シャンデリア煌めく会場で、エリオット王子がこう切り出した。

「シャルロットすまない。婚約を破棄する。私は真実の愛をみつけたんだ。

マリーを妻とする」


ざわめく周囲。

王子の傍らには、今話題の平民の少女がぴったりと寄り添っている。

マリーというのね? 

ピンクのゆるい巻き髪に潤んだ瞳、庇護欲をかき立てる愛らしい容姿、学園の高位貴族の子息を次々と夢中にさせたという娘だ。



「まあ殿下おめでとうございます! 真実の愛素敵です! わたくし心から応援いたしますわ」

シャルロットは、目をキラキラと輝かせた。

政略による婚約でシャルロットにも恋愛感情はない。だが幼い頃からともに過ごした婚約者、頼りないところもあるが幸せになってほしいのも本音だ。


「セバス、談話室を押さえて。この場では詳しい話もできませんから、殿下、マリーさま談話室に参りましょう」


「そうだな。婚約破棄にあたっていろいろと詰めないといけない話もあるだろう」




「皆様、ごめん遊ばせね。お先に退場させていただきますわ。皆様はどうぞパーティーをお続けくださいませ」

会場の皆様に優雅に一礼すると、殿下にこうささやいた。


「最近わたくし侍女が薦めてくれた恋愛小説に夢中ですの。真実の愛には詳しいのですのよ」





   *********






談話室の前に護衛を配置し人払いをする。


入室し、エリオット殿下とマリーさまにお茶をすすめた。


「殿下、わたくし真実の愛に感動しておりますの。殿下がマリーさまと親しくされていると伺っておりましたが、ひとときの火遊びか妾にされるのかと思っておりました。

それをわたくしとの婚約を破棄し、マリーさまとの愛を貫かれるなんて。

そのお覚悟、立派ですわ」


「勿論だ。真実の愛だからな」

エリオット殿下はとろけるような瞳でマリーさまをみつめる。


「それにマリーさまも、お気楽な妾を目指すのかと思っておりましたが、命をかけた困難な道を選ばれたのですね。わたくし、お二人を全力で応援させていただきますわ」


シャルロットはマリーの手を両手でそっと握りしめると、目を潤ませた。


「……えっ、 命がけって?」

マリーはちょっとたじろいだ。


「セバス、例の資料は用意してあるかしら?」

「もちろんご用意してございます」


「早速ですが殿下、真実の愛を貫くお二人に提案したいプランがございます」

用意した資料を広げる。


「私のお奨めは、マシュ湖ですの」


「プランA、マシュ湖、エルム岬、ホルム山。 なんだこれは? 新婚旅行の候補地か? 」


「うふふ、違いますわ。

まずは、マシュ湖からご説明しますね。霧で有名なこの湖、エメラルドグリーンで大変美しいところですの。真実の愛を貫く場所として、最適かと存じます」


「どういう意味だ?」

エリオット殿下が、怪訝そうな顔をする。


「まあ皆までいわせるのですか? 

この湖は大変深いので、命を落としても死体が上がりませんの。

真実の愛といえば、天国で結ばれる愛ですわ!」


「ということはエルム岬、ホルム山も?」

「ええ、エルム岬は流れが速いので死体が上がりませんし、ホルム山も魔界といわれ死体が発見されませんわ」


「なせ死なねばならんのだ?」

「セバス、皇室法第32条1項を読み上げて」

「はいシャルロットさま。皇室法第32条1項 王族の婚姻は、伯爵以上の地位を必要とする」


「殿下は王族、マリーさまは平民。我が国では婚姻が許されておりません。でも天国なら可能ですわ」

「マリーを伯爵以上の貴族の養子にすればいいだろう?」

「セバス、皇室法第32条2項を読み上げて」

「はいシャルロットさま。皇室法第32条2項 王族の婚姻する者は、生まれながらの貴族のみとする」


「2代前のフランツ2世が、踊り子に入れあげ伯爵家の養子にして王妃とし、国を傾けたことでできた法律です」

「 ……ひいおじいさま」

エリオット殿下が頭を抱える。


いやいや、殿下も一緒じゃないと思ったが黙ってることにした。


「死体がみつからない場所ばかりを薦めるのは、なぜだ?」

「ご遺体がみつかりましたら、殿下は王墓に安置されますが、マリーさまは言いにくいのですが、王族をそそのかし自害させた罪で野ざらしになる可能性が高いかと」


「そんな、ひどい」

マリーさまの顔が青ざめる。



「そんなひどい目には遭わせない。シャルロット、天国で結ばれる愛じゃないプランはないのか?」

「ございますわ。セバス、プランBの資料をお持ちして」


セバスが殿下の前に、資料を広げる。

「シベリ平原、コンア密林、エバンス島……。なんだこれは?」

「まず、シベリ平原から説明しますね。北の平原で現在国は存在しません。トナカイをかう遊牧民が暮らしています。オーロラがみられて美しいところですの。

こちらなら、追っ手に見つからないでしょう。お二人で暮らすのに最適ですわ。

我が家からトナカイ100頭差し上げますし、慣れるまで教師として遊牧民をつけましょう」


「私、寒いところは苦手で」

「俺もトナカイなど、飼いたくない」


「まあ、そうですか。ではコンア密林はいかがですか? 熱帯雨林で暖かいところです。常夏です。

緑も豊かで動物もたくさんいます。ここも秘境ですので、追っ手にみつかりません。

ただ虫が多くて虫が媒介する病気もありますから、虫除けと蚊帳、医薬品はたくさんご用意しますね」

「虫も苦手だわ」

「そうですか、それでは絶海の孤島エバンス島はいかがですか?

ここは、危険な動物もいませんし、気候も温和です。

ただ海流の関係で年に1度しか船が着きませんが、俗世を離れてお二人で愛の生活がおくれますわ」


「そこは、流刑で有名な島だよな?

 こんな寂しいところではなくて隣国辺りに逃げれば良いのではないか?」

「殿下、隣国は友好国ですから、すぐにみつかって連れ戻されます。その場合お二人は別れさせられることになりましょう」

「うむ。では敵国のゲルムならどうだろう?」

「殿下……」

シャルロットため息をついた。

(この方は、皇太子教育も受けたでしょうに。自分の立場と国際関係が分かってらっしゃらないのね)


「ゲルムなら喜々として殿下を捕らえて人質にして交渉カードにするなり、あるいは殿下を旗頭として我が国に攻めてきますわ。我が国の不利益となることはさすがにわたくしも応援できません。刺し違えても止めさせていただきます。

ですから殿下が逃亡なさるのでしたら、我が国と交流のない国か秘境になりますね」


「では、継承権を返上し普通の貴族になれば、国内でマリーと一緒になれるだろうか?」

まったく分かってないんだわとシャルロットは首を振った。

「マリーさまは平民。殿下が平民にならない限り無理ですね。

平民になったとしても、高貴な血の流出、先々の禍根がないように殿下には断種の措置がとられます。

わたくし、レディには教えられないと詳しいことは分からないのですけど、断種って殿方には恐ろしい事が行われるらしいです」


ひいいと、エリオット殿下が息を飲んだ。セバスもなぜかそっと股間を押さえている。

想像するだけで痛いことをされるらしい。


しばらく黙っていた殿下が口を開いた。

「さっきの婚約破棄は、なかったことにしてもらえないか?

いろいろ考えると、正妻を君にしてマリーを愛妾とするのが一番いいと思うのだ」

「シャーロットさま、いろいろ聞いたら愛妾が一番楽みたいだし、私からもお願いします」


「セバス、皇室法第36条1項を読み上げて」

「はい。皇室の者は公の場で婚約を破棄した場合、これを取り消せない」

「3代前のフランツ1世が、婚約破棄とやっぱり婚約破棄はやーめた!を繰り返して、国政を混乱させたことでできた法律です。綸言汗の如し(りんげんあせのごとし)ですわ」

「 ……ひいひいおじいさま」

エリオット殿下が頭を抱える。


「あ、あの、私エリオットさまの幸せのために身を引きます!

エリオットさまが断種なんてかわいそうだし、死ぬのは嫌だし、秘境に逃避行も無理です。

エリオットさまのことはキッパリ諦めて、平民のお金持ちを狙います」


そういうとマリーは脱兎のように逃げ出した。


「愛する人のために身を引くというのも、真実の愛かしら?」

シャルロットは小さく首をかしげた。


「いや、あれはご自分のためだとおもいますよ」

とセバスがつぶやいた。







   *********







 その後、エリオット殿下は勝手に王家が決めた婚約を破棄したとして、北の砦に出向となった。

厳しい環境で鍛え直せということらしい。


「エリオット殿下もいなくなられて、寂しくなったわね」

シャルロットはそっと、紅茶に口をつける。


「お嬢様、そんなときはお奨めの小説です。やはり純愛はBとLです!」

以前、恋愛小説を薦めてきた侍女が新しい小説を持ってきた。


「えへへ、いま平民の間で流行ってるんですよ。話題のエリオット殿下にぴったりの小説です。北の砦って男しかいないから、真実の愛が育つのです!」







侍女の予想が当たったのか、殿下がチョロいのか、

数年後、エリオット殿下はがたいのいい騎士を連れてシャルロットの元を訪れた。


「断種して平民になってこの国で暮らそうといったんだが……」

「ガハハ、お前をそんな目に遭わせるわけないだろう!」

がたいのいい騎士がエリオット殿下の肩をバンと叩いた。


「こいつとならどこへ行ってもいいと思ったんだ。こいつとトナカイ飼うのも面白そうだろう?」

「姫さん、あんたの幼なじみはちゃんと俺が守り切る」

がたいのいい騎士はガハハと笑い、殿下はそっとほおを染めた。


今度こそ真実の愛をみつけた殿下は、シャルロットの支援を受け北の大地へと旅立った。


風の噂では、エリオット殿下はオーロラ輝く大地で、がたいのいい騎士と仲良くトナカイを遊牧させているそうだ。





―― 代々政略結婚で恋に落ちることのないシャルロットは、「真実の愛」にちょっと憧れている。









ひさしぶりに書いたのですごく時間がかかりました。

リハビリ作品です。

読んでくださって、ありがとう!




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― 新着の感想 ―
オーロラの見える北の大地で愛する人と2人で暮らすって美しいラストですね! 殿下と騎士のお互いを思い合う気持ちも微笑ましいし、恋愛に憧れて幼馴染を応援してあげるシャルロットも微笑ましい。 個人的には、ご…
[一言] 控えめに言って.... くっそ面白かった
[良い点] 面白かったです。 シンプルできれいにまとまっていて、シャルロットの隙の無い真実の愛逃避行プランの周到さに笑わされました。 殿下も真実の愛が見つかって、めでたしめでたしでしょうか。 マリーも…
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