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放課後Ⅳ


 見下ろされている。今、すっごく冷たい目で見下ろされている……気がする。彼女とは距離があるのに、至近距離で対峙しているような気分だ。無言で私を見ていることが、余計にそう思わせる。


「……何?」


 表情も声のトーンも一切変えることなく、彼女は淡々と言い放つ。ピキピキと周りの薄氷に亀裂が入るが、大丈夫。まだ、足場はある。一歩でも動くと崩れ落ちてしまうかもしれない状況で、私は小さく息を吐くしかなかった。


「あー……、そのキーホルダーのキャラクター知ってるなぁ、と思って」


 キーホルダーを指さしながら言うと、彼女はリュックを背中から下ろし胸の前で抱えた。キーホルダーを掴み、私とキーホルダーを交互に見た後、何故かこちらに近づいて来る。それもかなりのスピードで。


 え、何? と思ったのも束の間、目の前には彼女の顔があって「うおあ!」と、自分でも引いてしまうような奇声を上げてしまったのは、仕方のないことだ。


「これ、私の好きな歌手のオリジナルグッズだけど。結構マイナーな歌手なのに、よく知ってたね」


「……私の友達もその歌手好きだったんだよね。そのネコのキャラクターお気に入りみたいで、よく使ってた。私自体はそんなにその歌手のこと知らないけど……」


 少しの間があって彼女は「そう」と呟くと、残念そうな表情を覗かせた。意外なリアクションに焦ってしまい、隣にいる円に助けを求めるような視線を送るが、思い切り首を振られ見放された。


 初対面から冷たいという印象を持ってしまったが、単純に彼女は感情表現が苦手なだけかもしれない。()()()()()()()が何よりの証拠で、なんだかその表情(かお)を見ていると、申し訳なくなってきた。


「あのさ、その歌手のことはよく知らないけど、歌は聞くんだ。歌は好きなの。クセになるっていうのかな? なんかそんな感じ」


 言い訳にならない言い訳を並べて、自ら首を絞めていることに気付いていたが、なんとか弁解したかった。神経を逆撫でするような言葉を選ばないように注意したけど、いかんせん、そんなことが器用に出来るような人間ではないので、彼女を怒らせてしまったらどうしようと、内心ひやひやだ。


 俯きがちだった視線を上げ、ゆらり、と感情を読ませない瞳が私を捉える。気に障ったのか触ってないのか判断出来ない表情は私の心拍数を上げた。


「歌、いいよね。クセになるっていうの分かる。中毒性があるの、その歌手」


 気のせいか、彼女の声のトーンが上がった気がする。その瞳に輝きがあるような、ないような……またも意外なリアクションに驚く。


「あ、うん……中毒性、ハンパないと思う」


 彼女の感情の浮き沈みは未だに掴めないが、彼女がどれだけその歌手のことが大好きなのかは伝わって来た。好きを通り越して心酔の域に達しているのかもしれない。


 中毒性がある、と同意見を述べたことにコクリと頷き満足気に微笑んだかと思えば、彼女はスタスタと奥の席の方まで歩いて行ってしまった。


 えっ、ちょっとマイペースすぎやしない? 



「あ〜、ごめんね。あの子、ちょっと変わってるんだよね。マイペースっていうか、我が強いって言った方がいいのかな? 興味のないことにはとことん興味なくて、好きなものについてはすごい熱量もって話し出したり。あんなだから他人から誤解されちゃうんだけど、嫌な思いさせちゃってたら、ごめんね。許してやって」


 フォローになってないフォローをしている美紀ちゃんもまたマイペースな人だと思うが、初対面の人に対してツッコミが出来るほどの強いハートは持ち合わせていないので、「全然大丈夫。嫌な思いしてないよ」と、完璧な愛想笑い付きで返す。それで会話終了だ。


 よかった。ありがと〜、と美紀ちゃんは私たちに手を振り爽やかに去っていくが、その姿を見送る私たちの間には、何とも言えない変な空気が流れていた。


「流石、梓の友達って感じだね」


「円、その言葉ブーメランだからやめて」


「あんたら本当に失礼だな」


 いつもの調子を取り戻した梓は新しいグラスを手に取り、いつものように私たちの分まで飲み物を注ぎ始めた。どう見ても、自然界に存在しない色の飲み物が出来上がっていて、戦慄が走る。アイドルの次は、どこぞのマッドサイエンティストかよ。振り幅が凄いな。


 誰がそんな毒物飲むものかと急いで席に戻るが、マッドサイエンティストは恐ろしい笑顔と共に、器用に三つのグラスを運んで戻って来てしまった。


 異臭を放っているわけでもないのに、咄嗟に鼻をつまんでしまうほどの色合いで、ゆらゆらとグラスの中で波打つ液体は、間違いなく不味いに決まっている。


 ちゃっかり自分の分だけメロンソーダを選んでいるあたりが、卑怯だ。


 飲む! 飲まない! の言い合いが何分間か続いたが、無理矢理梓に飲まされてしまった円には心から同情した。


 ゴクリ、と無情にも喉を流れていってしまった毒物はきっと逆流して来る、と本能で悟ったのだろう。口元を手で覆い構えたが、円の口から出て来たのは信じられない言葉だった。


「……イケる……だと!」


「なん……だって!」


「……まさか!そんな、あり得ない!」


 あり得ない。あんな汚ったない色した物が美味しいはずがない。信じられないと梓と二人で円を凝視する。次の瞬間倒れたりしない? 大丈夫? 即効性がないだけで、時間差攻撃来たりしない? と、次々と円に問いかけるが、当の本人はケロッとしている。


「そんなに疑うなら飲んでみなよ」


 目の前にグラスを突き付けて来るが、大きく首を振り、ついでに結構です、と両手も振る。全身で拒否をするが、いいからいいから、と勧めて来る。


 いらない! いらない! と大声で言い続けた。結果、図書室に続き本日二度目のお叱りを受けた。


 レッドカード。二時間もしないうちにファミレスを退場する羽目に。


 やってしまった。最後の方は本当にしょうもないノリを発揮してしまった。こんな予定じゃなかったのに……。


 結局、ほとんど話も出来ないまま、第一回作戦会議はお開きになった。















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