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指先のその先の






 訊きたいことが山ほどあった。話したいことも、山ほどある。ただ、今だけは思いっきり2人で泣いた。



 静かな校舎に、私達の泣き声が響き渡っていた。何も知らない人がこの泣き声を聞けば、恐怖で逃げ出すかもしれない。その方が私達にとっては、都合がいいけれど、学校の七不思議の一つになる可能性だってある。……それはそれで構わないか。



 どのみち誰もこの真相には、たどり着けないだろう。



 果たして、鯨井(くじらい)さんもアミが遺したメッセージの意味を、その真意を、理解することが出来たのだろうか。私も、アミの想い全てを知ることが出来たのだろうか。



 探せば、まだ知らないアミを見つけることが出来るのかもしれないけれど、アミはそれを望んでいない気がした。説明するのは難しいけれど、なんだか、そんな気がした。



 鯨井さんには、気づかなくていいとさえメッセージに遺している。例えわかってもらえなかったとしても、アミはそれで満足しているようだった。



 ……満足している? あのアミが? 自分の気持ちを最後まで伝えなくともいいと、本当にそう思う? アミのあの性格だ。必ず自分の気持ちを、鯨井さんに伝えていると思う。



 鯨井さんの腕の中で泣きながら、器用に私は考えた。気づかなくていい、ということは……、



 アミはもうすでに、鯨井さんに自分の気持ちを伝えたということではないだろうか。



 私はあのメッセージの意味を、理解しているつもりだ。これまでの私とアミの関係性があったからこそ気づけたことで、アミの秘密を知らない他の人には決してわからないだろう。今までの鯨井さんの反応からして、鯨井さんはアミの想いに全く気づいていないと思う。



 伝えても、それがストレートに相手には届かない方法……。アミはどのようにして鯨井さんに気持ちを伝えたのか……。



 悲しくて、悲しみに支配されていたはずなのに、そこにモヤモヤが覆い被さってきた。それを追い払うように顔を上げて、鯨井さんを見る。



「……っは……く、じらいさん……あのメッセージ……! あの写真に書いてあったメッセージ! もう一度、見せて! お願い"っ!」



 まだ、何も終わっていない。



 号泣していた相手からの急なお願いに、鯨井さんは当たり前だが驚き、困惑する。私は鯨井さんの目をじっと見る。その間も鯨井さんの目から、涙が溢れていた。



 鯨井さんは涙を両手で拭うと、「ちょっと待って」とカバンの中を漁った。私の要望に応えてくれるようだった。



 カバンの中からえんじ色の手帳を取り出すと、その中に挟んであった写真を抜き取る。私も涙を拭い「ありがとう」とお礼を言って写真を受け取った。鼻声だった。




 ずいぶんと伝えるのが遅くなってごめんね。だ

 って、私にとってはすごく勇気のいるこ

 とだったから。だけど、どうにか伝えたくて

 素敵な言葉をずっと探していました。

 きっと、そんなもの何処にもないのにね。

 でも、真白に伝えたかった。

 知ってほしかった。これが、私なりの答えです。

 ただ真白は一生気づかない。でもそれでいいから。



 

 あの時、何度も読み返した。でも、何もわからなかった。



 今度こそ。



「……伝えるのが遅くなった……勇気のいることだった……。どうにか伝えたくて、探してた、何処にもない。伝えたかった、知ってほしかった、私なりの答え……。一生気づかない、それでもいい……」



 ボソボソ何度も口に出して、読み返してみた。何か、何処か、おかしな箇所がないだろうか……。文章に違和感は……。



 どれだけ思考を巡らせていても、涙は止まらなかった。何度拭っても、流れる。隣から鼻をすする音が、ずっとしていた。



 しばらくすると「……ユイちゃん……突然写真見せてって……一体どうしたの?」、鯨井さんはやっとという感じで言葉を発した。鼻声だった。



 私は、首を振った。



 自分でもどうしても首を振ったのか、わからなかったが、鯨井さんがそれ以上何も聞いてこなかったのをいいことに、またボソボソと繰り返し読み続けた。



 一つ引っかかるのが、「これが、私なりの答えです。」というところだ。



 これが、私なりの答え……ということは、答えをこのメッセージの中に記しているということになる。だとしたら、やはりこのメッセージには、アミの本当に伝えたかった想いが隠されているということだ。



 ああ、なんか、引っかかる。この違和感の正体は、なんだろう。



 もう一度、上から順に一行ずつ読む。涙が邪魔だ。



愛海(まなみ)は……本当に、何を私に伝えたかったのかなあ……。何度読み返してみても、私、わかんなくて……。私が深く考えすぎちゃってるから、わかんないのかなあ……」



 そう言って鯨井さんは文字を指で指しながら、ゆっくりとした口調で一行ずつ読んでいった。私は耳でその声を拾い、目で鯨井さんの指先を追った。



「あっ」と声を漏らしそうになって、慌てて手で口を塞ぐ。



 読み終わると、鯨井さんはまた堪えきれずに声を上げて泣き出した。



 私も、涙を流した。 



 目を瞑って、上を向く。



 ーーわかったよ、アミ。



 鯨井さんのお陰で、私はアミの、鯨井さんに伝えたかった " 言葉 " を知ることが出来た。



 アミは、しっかりと鯨井さんに想いを伝えていたーー。












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