放課後
平日の夕方。お昼時のピークを乗り越え比較的暇であろうファミレスに、私は円と梓と共にやって来た。
同じ学校の生徒があまり足を運ばないであろう駅から少し離れた店を選んだ甲斐もあって、制服を来ている客は私たち以外にいなかった。
私たちが一歩店の中に入ると客の来店を知らせるベルが店内に流れ、奥に引っ込んでいたホールスタッフが慌てた様子で出て来た。その姿に、そんなに急がなくても、と苦笑いがこぼれる。私のその表情に気付き女性スタッフさんは恥ずかしそうに笑った。
お母さんと変わらないくらいの年齢のそのスタッフさんは、気を取り直したように人の良い笑顔を見せると丁寧に私たちを席まで案内し、「ご注文がお決まりになりましたら、そちらのボタンを押してお呼びください」と、マニュアル通りの台詞を言い切って、また奥に引っ込んで行ってしまった。
「円の言った通り、うちの生徒が全然いないね。あっ、どうしよう……ガトーショコラも捨てがたい…」
席に着くなり梓はメニュー表を手に取り、パラパラとページをめくり出した。グランドメニューが載っているページはすっ飛ばし、デザートメニューのページまで一直線。
食べたいと言っていた季節限定のパフェの下に強敵ガトーショコラの写真が現れ、どちらを胃袋に収めるのか葛藤していた。季節限定か定番か、確かに迷いどころである。
「さっきパフェ食べるって言ってたじゃん。忙しいなぁ梓は……ユイは何にする? 私はガッツリ食べちゃおうかなー、定食とか」
「あー、私もガッツリ系にしようかな。時間も時間だし、もう夕飯ここで済ましちゃおう。……決めた。チーズインハンバーグにする」
「何だよー、二人とも食べるか満々じゃないですか〜」
「このこの〜」と、肘で隣に座る円を梓が突くが、円は迷惑そうに眉をひそめるだけでメニュー表を見続けた。円には悪いが梓の隣に座らなくてよかったと思った。生贄ありがとう、と心の中で合掌。
「よし、決めた。私はねぎとろ丼にしよ。梓は? 結局どっちにするの?」
「くっ……季節限定パフェにする。さらばだガトーショコラちゃん」
苦渋の決断を迫られたかのような険しい顔つきで大袈裟に言う梓の頭を円は軽く叩き、「また食べにくればいいだけの話でしょ」と一喝する。その光景に笑いがもれる。
こんないつものやり取りを前にして、私はふと思った。
いつもと何も変わらない放課後を過ごしていて、いいのだろうかーー。
梓と円とでしか感じられないこの心地よさを実感しながら、彼女に対しての罪悪感が心の中で積み木のように積み上がっていく。
それは、きっと、突いて崩してみてもまた嫌というほど綺麗に高く、高く、積み上がっていくのだろうーー。