表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/76

和解








 素直になるには、勇気がいる。ごめんってその一言さえ言ってしまえば、自分の悪かったところをあっさりと全て差し出すことが出来るのに、そこに(いた)るまでが、遠い。




 気分は最悪。ベットに潜り込んだら嫌な感情に包まれてしまうと分かっているのに、どうして私は()りもせず毎度同じことを繰り返すのだろうか。電気(あかり)も付けずに、部屋の中で一番暗闇に支配される場所に身を隠して、気味の悪い怪物みたいだ。私の形に盛り上がったベットがその証拠。



 自分が悪かったと分かっている。でも、だって、いきなり切り込んでくるから、どうしようもなかった。



 どうしよう、このままタオルケットに隠れたままでいたら、本当に怪物になってしまうかもしれない。楽な方に流されて、醜い生き物になる。なんて惨めなんだ。



 暗闇の中で手に持ったスマホの光が、情けなく私の周りを照らした。人差し指で送るメッセージはたった三文字、伝わるだろうか? 本当に悪いことをしてしまったと反省していることが。



 一文字ずつ気持ちを乗せてタップする。



『ごめん』



 ーー送ってしまった。だいぶ時間が掛かったが、送った。グループルームじゃなくて、山本(やまもと)個人に。主語がないごめんは、どう受け取られるだろうか? 体を(さら)に丸める。怪物になるとか言っていたくせに、今の姿は強者に怯える小動物のようだ。スマホが震えるのが怖い。でも、震えてほしい。既読スルーは辛い。許してもらえなくてもいい、返事は[うん]でも[すん]でも何でもいい。私が無神経過ぎたせいで、山本を傷つけてしまったのは確かだから、何を言われても私にはそれを受け止めなきゃいけない責任がある。



 待つ時間は長くて息苦しい。顔だけタオルケットから出して、物理的にだけでも息苦しさを解消したかったが、残念ながらここには今の私にぴったりな、湿(しめ)っぽい空気しかなくて全然すっきりしない。気づけば手足もタオルケットからはみ出していた。そうすれば、少しだけ呼吸が楽になった、気がした。



 月明かりが頬を照らす。スマホの光とはまた違った輝きが眩しい。後はもう返事を待つだけだ、と投げやりになり何も考えずに横になったまま月を眺める。満月に見えるけど、実際は欠けているかもしれない、肉眼では限界がある。望遠鏡を持っていたとしてもそれを使ってまで月を見たいとは思わないが、はっきりしない自分を見ているように感じて、はっきりさせたいと無性(むしょう)に思った。



 段々、月の輝きが曇っていく。未完成な姿を誰にも知られないように流れてくる雲を(まと)い、暗闇に隠れながらもその存在を主張する。月は、自分の見せ方を知っている。



 真夏の夜にエアコンのない部屋で、かれこれ二時間もベットに横になっていれば、汗もかく。とりあえず、暑い。喉が渇いたが起き上がってリビングまで行くのも面倒くさい。なにより、返事が来ないことには心休(こころやす)まらない。



 そろそろ日付が変わる。


 前にアミから、もし友達と喧嘩したらその日のうちに仲直りしなくちゃ駄目だよ、と言われたことを思い出してメッセージを送ってみたものの、今日中には返事が来ないかもしれない。もしかしたら、ずっとこのままという可能性だってある。それは、嫌だな。





 

「何でその日のうちに仲直りしなきゃいけないの?」



「だって、明日があるか分からないじゃない」



「なにそれ、世界が終わる、みたいな? 大袈裟過ぎ」



「んー、世界が終わるかもしれないし、世界が終わらなくても、どちらかの人生が終わるかもしれないじゃない? 明日やろうは馬鹿野郎ー! だ!」



「どっちにしても、大袈裟じゃない?」



「そうかなぁ? でも! 仲直りする瞬間はいいもんだよ! 私は好き!」



 いつかのアミとの会話が(よみがえ)った。



 あの時は適当にアミの話を流していたけど、まさか実感する日が来るとは思ってもみなかったな。今なら分かるけど、その瞬間がどんなものなのかまでは、今の私にはまだ分からない。



 意味もなく寝返りを打つ。



 枕元に置いていた真っ暗なスマホの画面にぼんやり光が宿(やど)って、飛び起きる。眩しい。山本からと思ったのに、ただの広告メールだった。タイミング最悪、とすぐにそれを削除する。そして画面はまた真っ暗になる。



 もう寝よう、歯磨きしよ、そう思って立ち上がった時、その動作とは別の振動が、微弱ながらスマホを持っている手に感じた。誰にも見られていないにも関わらず、私は何故か平静を装いながらスマホを見る。




 山本からのメッセージだった。



 『俺も、ごめん』


 

 たったそれだけ、それだけでよかった。



 その瞬間が分かって、思わず笑いが()れる。



 日付は変わっていなかった。



 なんだか今日は、暑さにうなされることもなく寝付けそうな気がする。



 「おやすみ」と、返信してから、眠りについた。


















評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ