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またひとつⅣ







愛海(まなみ)の幼馴染なんだよ、鯨井真白(くじらいましろ)は」



「何でそんな大事なこと今の今まで忘れてるのよ、仮にも好きな娘の幼馴染でしょ?」



 (まどか)の顔のパーツが鼻を中心にぎゅっと寄る。幼馴染なら一番に名前が挙がってもおかしくないのに、あの娘の顔を見てやっと思い出すって、どうなの? って呆れている。



 白石愛海(しらいしまなみ)以外は眼中にないってこと? 恋は盲目ってやつ? 好意を抱いている相手とその周りの人間を一緒くたにする器用さを持ち合わせていると思っていたのに、山本は意外と不器用だったと知った。



「忘れてたってゆーかなんていうか、愛海と鯨井は正反対だったしよ、距離があったってゆーか……」



 歯切れの悪い説明だったが、なんとなく知りもしない白石愛海(しらいしまなみ)と鯨井真白の、その関係性がイメージ出来た。



 ホームズとワトソン、ドラえもんとのび太みたいな誰に聞いてもこの人にはこの人だと断言出来る相棒とかパートナーとかっていう関係を築くことは、地球が突然逆回転に自転し始めるくらい凄いことで、(それは大袈裟すぎると言われてしまうから絶対に口にはしないが)だから、白石愛海と鯨井真白のその距離感も " 普通 " のことなんだろうなと思えた。ずっと一緒に居るっていうことは現実では難しい。息が詰まる思いを何度することか。その[幼馴染]という運命を(わずら)わしく思う時もあると思う。


 











 山本(やまもと)がポテトを数本つまみ口に入れる。それを四、五回噛んだだけで飲み込む。喉仏が上下する。



「中二の冬くらいから愛海と鯨井が、学校で話さなくなったんだよ。それまで毎日登下校一緒だったのにそれもなくなって……それでよ、鯨井のこと忘れてたわ、愛海の幼馴染っていう肩書きが俺の中でなくなってた」



 次に何をつまむか迷っていた山本の手は、なんこつの唐揚げを選んだ。今度は何度も歯で噛み砕き、飲み込む。油のついた人差し指と親指をペーパーナプキンで擦り付けるように拭くと、また何をつかもうかと迷っているようだった。私にはそれが、どこに大切な記憶があるのかを探しているように見えた。



「喧嘩でもしたのかな? それで二人の距離が開いて、親友だったって萌香(もえか)は言ったんじゃない?」



「単純に考えたら(あずさ)の言う通り、喧嘩離れって感じだろうねぇ。よくあることだよ」



 と、ペラペラの紙のような少しでも風が吹けば、簡単に飛ばされて行ってしまう円の軽い言い方に、切なさを感じる。グラスに残ったままの唇の跡とか、一日中動き回ってくたくたになった制服とか、また明日って言い合う声に、鳴かないスマホ、全部全部、切ない。



 夏の夕方は優しさと同時に切なさを引き連れてやって来る。



「で、どうする? 鯨井真白に話聞くの? 山本は中二の冬から仲が崩れたって言ったけど、それからもう二年は経ってるんだよ? 何で今? って感じじゃない?」



「それな。二年経つし、やっぱ鯨井は関係ねぇんじゃね?」



「でもユイは萌香に言われたんでしょ? 山本(やまも)っちゃんもちょっと気にならない? 幼馴染に亀裂を入れちゃった原因」



 そりゃぁ気にならないこともねぇけど、と頭を()く山本は、私の意見を待っていた。お前はどう思うって目は、以前のような敵視を感じられない。なんだかくすぐったくて、それを隠すようにグラスに残った唇の跡を親指で(ぬぐ)うが、余計に汚くなった。



「聞こうよ、鯨井真白に。他に手掛かりないし、幼馴染しか知らない情報を持ってるかもだし」



  グラスから親指を離し、手を膝の上に置いた。もう、消すことは諦めた。



「ユイがそう言うなら、聞いてみようか。問題なのは……どうやって近づくか、だね。こーゆうのは、梓と山本の得意分野なんじゃない?」



「いや、無理だって! 私もほぼ初対面だから。山本っちゃん、任せた!」



「俺もダメだろ。そんなに話したことねぇのに、このタイミングで話しかけたら絶対怪しまれるわ」



「えー、コミュ力高い二人が行かないでどーする! 私とユイは接点すらないんだからね? ね、ユイ?」



 全力で縦に頷く。この件に関しては全力で拒否したい。



「待てよ……やっぱりユイが適任じゃない? ほら、ユイの友達に真白ちゃんと同じ歌手が好きな友達いたじゃん! それ繋がりでイケるんじゃない?」



 親指がまたグラスの(ふち)を拭う。横に伸びて広がってしまった汚れは、元に戻らない。それでも新しいグラスは使いたくなかった。誰からも見えないようにグラスを手で覆い、誤魔化す。梓の提案も、そうやって誤魔化したかった。



「無理だよ。私が好きな歌手ってわけじゃないから、話しかけても秒で会話終了しちゃうよ。そっから話し広げられる自信ない」



「その友達を紹介するってのは? 偶然会ったふりをして、この前言ってた歌手のファンの子だよ〜って」



 ハードル高くね? とこぼす山本のお皿の上に、嫌がらせでなんこつの唐揚げに添えられていたパセリを乗せる梓が(にく)たらしい。



 私には無理だって。



「とりま、その歌手のファンの子に連絡してみてよ。そんで協力してくれるか聞いてみたら? それでもダメだった場合は山本だな。よろしく」



 円にまでそう言われてしまえば、何も言えなくなった。山本もそれなら仕方ない、みたいな顔をしている。



 ほら、連絡連絡、と()かされ渋々(しぶしぶ)メッセージを送るしかなかった。



 画面を覗き込んでくる梓を回避しながらアミの名前を探して、文字を打ち込んだ。久しぶりの連絡で、何とメッセージを送ったらいいのか迷う。



 迷って、迷って何度も打ち直して、最終的にたった一言のそっけないものになってしまった。



 たった一言、



 『生きてる?』



 ーーと。



 その日、「何それ笑、生きてるよ」とアミから送られて来たそのメッセージを読んだ私が、



 

 泣いているーー夢を見た。


































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