静黙
後悔しない人生なんてあるのだろうか? たまに、そんなことを考える時がある。結局いつも、そんな人生は存在しないという結論に至るのだが、心の何処かでそんなことないと子供のように駄々をこねる私がいる。
そうでもしなきゃ、救われない時があるから。
あの日芽生えた怒りと苛立ち、そして、喪失感は、まだ、心にいる。これらの気持ち全てが整理されない限り、私の人生は後悔に終わるだろう。
一生、誰かを恨み続け、一生、自分自身を許せなくなる。そんな未来が見える。
だから、私は必死なのかもしれない。後悔しない人生にするためにも、真実を知りたい。
ーーと、たまにはセンチメンタルになる時だってある。そう、今日みたいな日は特に。
待ちに待った放課後は、あっという間にやって来た。ワクワクするようなことは、何ひとつもないが、私はこの時を待ちに待っていた。
山本はきっと、認める。白石のことが好きだった、と。
最後に見せた動揺で、私はそれを確信した。
梓と円もいるから、あんな威圧的な態度は取らないだろうし、山本は素直になる。根はいいやつだから、根は。
廊下で話した内容よりも、もっと奥深くへ潜れる気がして私は少し高揚していた。すぐにでも話し合いをしたいのだが、運が悪いことに山本と別れた後、数学の先生に捕まってしまった。
「丁度よかった! ちょっと頼まれてくれ」と、放課後クラス全員分の数学のノートを回収して職員室まで持ってこいと、こちらが喋る隙を与えずに息継ぎなしで言い切られてしまい、今、一人寂しく重たいノートを職員室まで運び終わったところだ。
梓と円も手伝ってくれるかもしれないと淡い期待もあったが、「あ、頑張っ! 待ってるね!」、「いってら」と、笑顔で送り出された。その時の私の顔を鏡で見てみたい。
山本っちゃんのことは、ちゃんと捕まえとくから任せて〜、と言われたから怒る気にもなれなかった。
先生の手伝いならぬパシリを終え、もと来た道を戻る。通り過ぎた教室にはまばらに生徒達が残っているのが見えた。どの人たちも楽しそうに談笑している。私たちもあんな雰囲気で話し合えればいいな、と柄にもなく思ってしまった。私だって、出来れば言い合いのようなことはしたくない。
ふと、立ち止まってしまったのは、そんなことを考えていたからじゃない。誰もいない教室の前を通ったからだ。
あぁ、懐かしいな、この教室はアミと出会った場所だ。
一年生の時、同じ美化委員会に所属していて初めての委員会の集まりで隣の席に座ったのが始まり。
苦手なタイプだと思って距離を取っていたが、アミはそんなのお構いなしで、ヅカヅカと私の中に入ってきた。
「美化委員って楽そうだったから選んだんだけど、結構、面倒臭いよね」
しかめっ面が可愛いと思った。
「それな、失敗したわー、後期は違う委員会にしよ」
「え、じゃぁ後期も一緒の委員会にしよー!」
「それは嫌」
「何で!」
気付けばこんな会話を繰り広げるまでの仲になっていた。でも、二人の関係を明確に表す言葉はなかったと思う。顔見知り? それは遠すぎる。友達? それも違うような……そんな不思議な関係性が続いていた。
でも、それが心地よかった。
底抜けに明るい性格に救われていたのだと思う。
そうだ、あの駄菓子屋に行かなくちゃ。ちゃんと、行かなくちゃ。
アミにメッセージを送ろうかとスマホを手に取ったが、やめた。
優先順位はこっちではない。ごめんね、アミ。
ドアを開ければ、そこには梓と円、そして、山本の姿があった。私は一直線に山本を見る。修得したばかりのシニカルな笑みを作って。
「逃げなかったんだ」
「誰が逃げるかよ」
互いに笑みを深める。
さてと、あとはお互いの胸の内を包み隠さずに打ち明けるだけだ。




