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衝突II

 





 白石愛海(しらいしまなみ)。出席番号、十三番。身長、百六十センチ……ないくらい。血液型、たぶんB型。二年時(いま)は保健委員会所属。帰宅部。前髪ありのロブヘアがよく似合う()



 これが私の知っている白石愛海についての(すべ)てである。



 くらい、たぶん、という言葉を使っている時点で、ほとんど彼女のことを知らないと言っているようなものなのだが、別段(べつだん)(した)しくなかった人間の身長や血液型を知っていた方が、やばいと思う。



 自分が如何(いか)に白石愛海という人間を知らなかったのか、彼女のことを考える時間が増えれば増えるほどに、それを痛感した。



 そんな彼女のプロフィール紹介さえままならない私だが、客観的に見た彼女のことを説明するのなら、少しだけ自信があったりする。



 彼女とは二年生になって初めて同じクラスになった。



 クラス替え直後の教室といえば、(へん)に気を使い、誰もがどう動くべきか探り合う、というどことなくぎこちない雰囲気から始まるのものだが、二年A組(うちのクラス)はそんな空気にのまれることはなかった。



 白石愛海がいたからだ。


 一言で言うと彼女は、愛される人。


 彼女が話し始めれば誰もが聞き入り、彼女が笑えば周りもつられて笑う。彼女の周りは自然と人が集まった。



 私が思い出す彼女はいつも笑顔で、何がそんなに面白いのか、と呆れてしまうほど笑いの沸点が低かった。その屈託(くったく)なく笑う姿が愛される理由のひとつでもあるのだろう。


 

 ポジティブ思考だったし、いい感じに()けているところもあった。



 裏表のない性格は誰からも好かれ、彼女に憧れを抱いていた生徒(ひと)もいただろう。


 二年A組(うちのクラス)の中心は、白石愛海だった。


 これが、客観的に見た彼女だ。



 損得勘定(そんとくかんじょう)で動かない彼女は、周りの人間に()しみなく愛情を(そそ)ぐことのできる人間だ。



 そんな彼女だからこそ、愛される人、だった。



 愛には四つ種類があるというが、彼女はたぶんその四つの愛、(すべ)てを手にしていたと思う。


 友人にも恵まれたであろう。もちろん、家族にも。



 彼女を恋愛対象として見ていた人間も多く存在していたはずだ。



 シニカルな笑みを浮かべ、私を見下ろす山本(コイツ)もきっと、そのひとりだーー。









「お前ら、黒板にあんなこと書いた犯人(ヤツ)を探してるらしいじゃん」



 これが、出会い(がしら)に私に向けて放たれた言葉だ。



 言われたのが廊下ということもあって、それが私に向けられたものなのか確認するために辺りを見渡したが、廊下には私と山本(コイツ)しかいなかったので、これは確実に私に向けられたものだと理解した。



 ちなみに、理解した瞬間に私が放った言葉は「はぁ?」の一言だ。(すで)に臨戦態勢に入っている。



 目には見えないが、私と山本(コイツ)の間で火花が散っている。一触即発状態。どうか、誰もここに来ませんように、と祈る。



「何それ? 誰がそんなこと言ってたの?」



「誰かに聞いたわけじゃねぇよ。千佳(ちか)たちがなーんか話してるとこ偶然聞いただけ」



「あんたの聞き間違えじゃない? 仮にもしそうだったとしたらあんた、犯人探しの協力でもしてくれんの?」



 私もシニカルな笑みを作る。あ、この笑い方、得意かもしれない。



「協力? 協力してほしいの? どーしよっかなあー。協力しても、それ、俺にメリットなくね?」



 よくもまぁ、ぬけぬけとこの男は……。



「……メリットならあるでしょう? 犯人が見つかれば、自分が白石の死に関与(かんよ)してないってことが証明出来るわけだし?」



「……その言い方だと、お前、俺のこと疑ってんだろ。あれ書いたのやっぱ俺だと思ってんのか?」



「……はっきり言って疑ってる」



 だろうな、と言って更に笑みを深める。



「で、何で俺を疑ってるわけ?」



「……単純だけど、あんたがいつも一番に学校に来てるから、それだけ」



「はぁ? そんな安易な理由で俺疑われてんの? マジかよ。お前ら、小学生並みの頭してんな」



 極め付きに鼻で笑いやがった。山本(コイツ)のこと別に嫌いじゃないと思っていたが、今、嫌いになった。(むし)ろ、大っ嫌いだこんなヤツ!



槙子(まきこ)が見てんのよ! あんたがあの日、七時前に学校に来てたところを! あんたの後に悠里(ゆうり)が友達と一緒に登校して来て、その時にはもう、黒板に文字が書かれてたのよ! あんたでしょう? 書いたのは!」



 勢い任せに出てきた言葉は、犯人の取り調べをする刑事みたいな言葉だった。言った後に、後悔した。普通に恥ずかしい。これじゃまるで、私がめっちゃ熱い人間みたいじゃないか。



 絶対、笑ってる。腹立つ笑顔が頭に浮かぶ。


 

そんな風に考えて顔を上げられないままの私に降ってきた言葉は、想像していたものとは全く違った。



 なるほどねえ……と低い声が耳に届き、私は恐る恐る顔を上げる。

 


 視線がぶつかる。また山本が笑うが、緩んだのは口元だけで、目は全く笑っていなかった。どういう感情なのだろうか、全く分からない。



「なぁ……考えなかったか? 例えば、悠里とその友達が共謀(ぐる)で自作自演だった、とか。例えば……俺が悠里のことを(かば)ってる、とか」



 追い詰められているのは、私の方だった。















 


あけましておめでとうございます。

今年もマイペースに執筆していこうと思っているので、よろしくお願いします。

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