謎II
「一番に教室に来たのは悠里だった。音楽室でフルートの自主練がしたかったみたいで、大体七時十五分過ぎくらいに教室に荷物を置きに来たって。その時にはもうあの文字が黒板にあったらしいよ。他のクラスの友達と登校して一緒にそれを見てるから、悠里は犯人じゃないよ」
それ、誰情報? と円が聞けば、梓は当たり前のように悠里本人から聞いたと言った。円の眉間のシワが増える。
「本人か……信憑性ないと思わない? ユイ」
「うーん、友達と登校してそれを一緒に見たって言うなら、朝は書けなかったってことだよね。夜のうちに書いた可能性は捨てきれない」
「でも、放課後もホームルーム終わったら悠里は吹部に直行だよ? それはユイも円も知ってることでしょ? 部活終わりも吹部の友達と一緒に帰るし、書く時間なんてないよ」
それにーー、と梓はご飯を食べる手を止め、お弁当箱を一旦膝の上に乗せてから視線を上げた。
「あの日、美紀がね、あっ昨日ファミレスで会った子ね。あの子も吹部でさ、あの日、部活終わってから最後に音楽室の施錠して帰ったのが美紀らしいの」
床に手をつき梓は前のめりの姿勢をとる。
「施錠したあと、友達と二人で教室に忘れ物を取りに戻ったんだって、その時、うちのクラスの黒板には何も書かれてなかったらしいの! それが夜七時を過ぎてたらしいから、犯人はそのあと学校に居た、または忍び込んだやつってわけ!」
放課後から翌日の朝まで友達と行動を共にしている悠里には出来ない、と梓は言った。円の眉間に刻まれたシワもいつの間にか消えていて、それは、悠里に対する疑惑がなくなったことを意味しているのだと思えた。
一度家に帰ってからまた学校に戻ってきた、という線は消せないが、まあ、そのことは私の心の中に留めておけばいいことか。
一旦、悠里のことは保留にしておこう。
「悠里は白だとして、山本の疑惑はまだ残ってるからね。夜、学校に忍び込んで書いたのかもしれないし」
「円は疑い深いなぁ、ユイのが山本っちゃんのこと疑ってない感じじゃん。言い出しっぺなのに」
唐揚げを頬張りながら、私は二人会話をぼんやりと聞いていた。
山本はグレーだ。昨日も言ったように疑いが晴れるまで疑い続けるしかない。だから、山本のことはまだーー。
「ちなみにさ、山本はいつ学校に着いたの? その日に限って一番じゃなかったなんて、逆に怪しいよね」
冷たい声だったと思う。突き放すような言い方だったと。私は何故か、怒っていた。何に対して怒っているのか分からなかったけど、とにかく、怒っていた。無性にむしゃくしゃしていた。
「……それは、分からないけど……分からないけど、一番ではなかったよ。山本っちゃんあの文字見てこれ書いたの誰だ! って怒ってたのを見てる人が何人もいたから」
「何で山本がキレるのよ。そんな優等生タイプじゃないでしょ。どっちかってゆーとあれ見て面白がるタイプじゃん」
「なんなの? 円は山本っちゃんのこと嫌いなの?」
好き嫌いの問題じゃないよ、と真面目に答える円。そういう問題じゃない。そうなんだけど、それを聞いて私は山本のことが好きじゃない、と心の中で呟いた。嫌いでもない……けど、好きではない。このイライラは、そんな私の私情が関係しているのだろうか?
例え同じクラスでも、私にとってはただのクラスメイトであって、それ以上ではない。関わることのない人種だ。だから、山本のことは何も知らないし、興味もない。
ただ、円が言うように、あんなことがあっても嫌悪感を感じることもなく彼も……彼だって、面白がる側の人間なんだと思っていた。
だから、好きにはなれない。
山本は、どうして怒ってたんだろう? 謎が深まるばかりだ。まだまだ、山本のことは探る必要がある。グレーが真っ白になるまでは、目を光らせておかないと。
「山本のことは放課後以降のアリバイを証明しないと、犯人候補から除外出来ない。円、梓、協力よろしくね」
最後の唐揚げをひと口で口に放り込み、気合を入れた。梓が私の真似をするようにウィンナーを食べて、それを見た円が笑う。
こんな場所でお昼を食べるのも悪くないなと思えた。




