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『集合! 新情報入手! 昼休み即集合!』


 そう(あずさ)から招集がかかったのは、午前中最後の授業の終わりを知らせるチャイムが鳴る五分前のことだった。


 制服のポケットの中で震えたスマホにすぐに気付き、先生が背を向けている隙を狙って、りょーかいと書かれたあのネコのスタンプを送ったが、今すぐにでも梓の元まで行って話をしたい衝動が湧き上がってきていた。


 でも、あと五分間は机に拘束された状態を維持していなくてはならない。それが学生の宿命。


 ただ待っているだけは嫌で、腕時計の秒針が一秒ごとに刻まれるのを、ジッと見つめていたが、そのうちに苛つきも湧き上がってきた。あと三十秒……あと十秒……心の中でカウントダウンする。


 さん、に、いちーー。


 余程楽しみにしていたのだろう。待ってましたと言わんばかりにチャイムと同時に一斉に席を立つ音が教室内に響く。


 授業終了の挨拶をしてからのクラスメイトたちの行動は早かった。もちろん、私もそれに負けないスピードで行動する。椅子に腰掛けることもなく教科書とノート、筆記用具を机の中に突っ込み、ランチバックを掴むと急ぎ足で(まどか)と梓と合流した。


 何処に行くか、なんて決めていないが教室の外に自然と足が向かう。


 ざわざわと生徒たちで賑わう廊下を縫うように抜け出し、人が来ない穴場スポットを探すが、そんな都合のいい場所は存在しない。


「何処に行くの? 空き教室とか? あ! ロッカールームとか?」


「どっちも鍵が必要じゃん。先生に見つかったら面倒だし、ユイどーする?」


 そう、面倒なのだ。うちの学校は基本、昼食は各教室でーーという決まりがある。それでも、先生たちにバレないように教室外で昼食を摂る生徒はいる。たまにそんな生徒がいないか昼休みに見回りをしている先生もいる。それが厄介で私たちは教室以外の場所でお昼を食べようなんてしたことも、思ったこともなかった。


 今日、ある意味新しい扉を開いてしまったのかもしれない。


 見つかったらどうしようというドキドキと、梓が入手したという情報を聞けるという緊張感があって、気持ちが落ち着かない。ごちゃごちゃだ。


「階段の踊り場は? 屋上の出入り口のとこ。あそこ、なんか荷物が置いてあって丁度死角になってるでしょ?」


 一番に思い付いたのがそこだった。


「なってる! ベニヤ板みたいなのが立て掛けてある。あそこならバレないかもね! よし、早くそこ行こ」


 梓は軽快に階段を駆け上がって行く。私は円と同じペースでゆっくりと上っていった。でも、きっと気持ちは梓を追い越していた。


 早く話を聞きたい。早く、早く。


「そんなに気になるなら梓みたいに走っていけばいいのに」


 ソワソワしてるのがバレバレだから、そう肩を震わせながら円は言った。笑うのをどうにか我慢しているみたいだ。

 

「はぁ? 別にソワソワなんてしてないから。いつも通りだから」


 途端に恥ずかしくなって私はそっぽを向く。円は耐えきれなくなったのか、声を出して笑い始めた。


「意地張らなくてもいいって、私だって気になってるよ? まあ、梓が持ってきた情報だからあんまり期待も出来ないけど」


「梓にそれ言ったらまた機嫌悪くなるよ。お子ちゃまだから」


「ユイも人のこと言えないじゃん」


「そんなことないし」


 ある。ない。ある。ない。と、きりがない言い合いをしながら次の階まで上がる。屋上の出入り口までは、あと一階上れば着く。


「ユイは短気だからね。ほら、また怖い顔してる。そんなだから勘違いされるんだよ。近寄りがたい人って」


「それは勘違いじゃなくて事実でしょ。目がきついから基本的に人は寄り付かないし、梓と円と仲良いからみんな話しかけても大丈夫って判断して、初めて話しかけてきてるからね」


 よく言われる。怒ってるのかと思って話しかけられなかった、と。でも、私はそんなことでいちいち落ち込むような可愛い女の子じゃない。だから、怖い顔と言われることに関して悲しみも怒りも感じない。


「話してみたら面白い子なんだけどなー、ユイは。……なんか似てるね、昨日のファミレスで会った子と。あの子も見た目気が強そうで近寄りがたいイメージだったけど、大分ユーモアがある感じの子だった」


「……そーですね」


 あの子と私が似ている? そんなわけない。あの子と私の()()()()()はタイプが違う。確かにあの子はツンとしていて気が強そうに見えるが、周りから近寄りがたいと思われる一番の原因は、あの子は美人だから、だと思う。単に目がきつくて怖いと思われている私とは、似ても似つかない。





「でも、多分あの子よりユイの方が面白いと思う」


 円はニッと笑って、梓のようにぴょんぴょんと重力を感じさせない足取りで階段を駆け上がっていった。何かに押されるように私もその後を追う。でも、二人のように駆けることは出来なかった。








「おーそーいー! 二人ともおーそーい。もう先に食べちゃうとこだったよ」


 言いながら、食べていた。いや、食べてるじゃん。先に食べちゃってるじゃん、という言葉は飲み込んだ。代わりに円がツッコんでくれると信じていたからだ。


「食べてるじゃん。最初から待つ気なかったでしょ」


「だってさ、早く話したくてさ! いつもより早く食べちゃわなきゃと思って。ほら、二人も早く食べて」


「別に食べ切らなくても、食べながら話せばいんだから……はぁ、ユイ食べよ」


 呆れながらも私達もしゃがみこみお昼を摂る。


「それで、新情報って何?」


 待ちきれず、ご飯を口に運ぶよりも先に話を進めようとする私の姿を見て円はくすくすと笑っていたが、そんなこと気にも留めない。今は話の方が重要だった。


 梓はご飯を食べる手を止め、真面目な顔をして話を切り出す。


「あの日、朝一番に来たの山本(やまも)っちゃんじゃなかったよ」


 お箸を握る手に力が入る。




 山本じゃなかった。


 その言葉に何処かほっとした自分がいた。












 

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