エピローグ
短いですが前のエピソードと合わせるのはおさまりが悪かったため独立させました。
エミリアは相変わらずセイラ姫の刺繍の指導のために、定期的に王宮に通っていた。
セイラ姫は十歳になり、最近、公の場に出始めた。
まだ幼いが頭の良い姫は、公務ではないものの表に出ることで、王族としての役目を全うしている。気さくな姫は町の人気者で、独身時代のアイヴィー姫を彷彿とさせた。
叔母である姫は、結婚の翌年に第一子を、その二年後に第二子を産んだ。エミリア夫婦に子はいないが、もし年回りの良い子が生まれたら婚約させましょうと、早くも話が出ている。
ネイサンは親友に対して気が早いと言い、中々子宝に恵まれない妻に対しては、もし跡取りができなければ兄夫婦から養子を取れば良いし、そうでなくとも新興の貴族なのだから断絶しても構わないと楽観的だ。
夫婦揃って王太子宮に出仕するのも習慣になり、充実した日々を送っている。
「奥さん、そろそろ帰りましょうか」
セイラ姫の刺繍を見ていた妻に声がかけられた。
出会った頃よりも少しだけ老けた顔のネイサンは、変わらない笑みで妻を見つめる。
「そうですね、そろそろお暇いたしましょう」
エミリアは微笑んで夫の手を取る。
ネイサンは王太子の護衛であり、戴冠してもそのまま勤めることが決まっている。そのうちに軍務卿として辣腕を振るうのではないか、というのが騎士団内でのもっぱらの見方だった。
「御前を失礼いたします。また来週、お伺いいたしますので、それまでに針が進んでいることを楽しみにしていますね」
「ええ、楽しみにしていて。大作に仕上げるから」
セイラ姫はいたずらっぽく笑い、お気に入りの元侍女の退室を見送るのだった。
これで完結です。
この後、番外編を数話予定していますが、上げる時期が未定なので、完結済のステータスにします。
一応、年内に全てを上げ終える予定をしていますが、ラスト数話を上げるのに半年お待たせした前科があるため、説得力がありません。