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√真実 -003 教室の噂話 (1)



「よし、じゃあ二学期最初の朝の会はこれで終わりだ。一時間目は提出物の回収の後、新しい時間割を渡すからな~」


 提出物と聞いて何人かが顔を青褪めさせたが、真実たちは勿論余裕の表情だ。

 しかし担任教諭の尾桟(おたな)は一旦職員室に戻る素振りをした。時計を見れば一時間目が始まるまでに五分しかない。

 何故そんな面倒な事を? と見ていると、尾桟は級長の麻野克俊と副級長の多鍋幸紀(ゆき)に一時間目を仕切るよう指示した。という事は一時間目は尾桟がいない事を意味する。それに気付いたクラスの皆が色めき立った。


「おいコラ! あまり騒ぐなら居残りさせるぞ! 麻野、多鍋、悪いが頼むぞ。おい、飛弾。それと黒生。それぞれ話がある。付いてこい」


 突然の呼び出しに、え? と固まる二人。対して教室内は騒然とする。

 夏休み中に色々とやらかして有名人となりつつある真実。妊婦(瑞穂)が襲われていたのを救ったのは全校集会で周知の事実となってしまったし、夜祭りではアベックを狙ってカツアゲをしていた男たちが真実を襲ったが、それをあしらい逮捕に貢献したのを祭りに行っていたこの学校の生徒にも見られていたかも知れない。実際にクラスの悪ガキ三人組といつもツルんでいる女子三人組に見られていたから、他の者たちにも知られるのは時間の問題だとは思っていた。

 今のこの教室内の騒ぎや真実が今朝登校した時に一瞬静まり返ったのは、その事が知れ渡っていたからなのかも知れないと察する真実。だが、光輝まで呼ばれたのは? と考えてみたが、恐らく夜祭りで一緒にいたからその確認の為なのだろうとアタリを付けた。


「おい、飛弾! 今度は何をやらかしたんだ?」

「人助けの次は悪の組織とでもやらかしたかぁ?」

「何だお前ら、知らないのか? 駅の南であった夜祭りで、ナイフ持ったイカれた奴を撃退したんだよ」

「いや、俺が聞いたのはドスを振り回してたチンピラだって……」

「いやいや、日本刀持った幽霊だったって聞いたぞ!」

「て事はあれか? 真剣白羽取りとかカマしたとか?」

「馬鹿、あれは空想の技なんやで! あんなん実際にやったって止められる筈ないんやで!」

「は? んなもん、達人の技だから素人がやったって成功する筈がないやろ」


 脱線しながら言い争うクラスの男子たち。随分と噂になっていた様子が伺えるが、金属警棒を持った男が相手だったのに正しくは伝わらず尾ひれはひれが付いてトンでもない話に化けていた。

 一方で女子の方にも噂は拡がっているらしく、あちこちでこそこそと話している様子が見られた。


「夜祭りで何か可愛い子を連れてたって聞いたわよ」

「えっ! まさかカノジョ?」

「あの飛弾君が? それはないでしょ!」

「え? 夏祭りで何人もの年上の女の人と親しげに話してたのを見た子がいるって聞いたんだけど」

「年上の人を何人もって、何だかエロくない?」

「え、まさかあの顔で取っ替えひっかえ? 信じらんない」

「いや、私は浴衣の小さな子だったって聞いたけど」

「小さな子って、まさかロリコン?」

「ちょっと待って。年上キラーで年下もOKって、あまりにも節操なくない?」


 乱れた性生活を想像したのだろうか、女子たちの目は冷ややかなものだった。しかしこちらは実際の目撃情報がほぼ合っていての、想像が飛躍するパターンであった。浴衣の小さな子は光輝だったし、年上の女の人たちは道場の常連の人たちで顔馴染みなので仲が良いのも当たり前だった。


「でも、どうして黒生も呼び出されるんだ?」

「何か別件じゃね?」

「まあ、黒生だもんな。何か事件を起こすような奴じゃないもんな」

「てか、あいつ最近飛弾たちの席んとこにちょいちょい行ってるよな。今まで席から殆んど離れなかったのによ」

「そう、それな! 今まで置いた人形みたいだったのによ」

「あ~、あれじゃね? 修学旅行の班が一緒だからじゃね?」

「でもよ、あのメンバーの中に秦石がいるのが不思議でたまらんんのだけど」

「だよな~、他の女子たちが何か悔しがってたぞ」


 男子の中での光輝の評価は、とても大人しく悪い事は一切しないと思われているようだ。

 だが、女子の間では少し違う。



「ホントあの子、私たちには何も喋らないから何を考えているのか分からないよね」

「もしかして秦石君と同じ班になったのって計算づくだったり?」

「うわ、それ最低~」

「一学期の終わりの頃なんて、休み時間になると秦石君の席に入り浸っていたし、結構喋っていたよね」

「え~? 秦石君の前でだけ喋ってるの? 黒生って普段は猫を被ってたって訳?」

「え~? それはないと思うけど、もしそうなら幻滅よね~」


 極一部の智樹派の女子たちの中では光輝の印象は突然悪くなっていたが、完全な言い掛かりである。しかし、それを指摘するのは隣で話してた別のグループだ。

 尾桟に付いて教室を出ていく真実と光輝を目で追いながら、隣のグループの会話に割って入る。


「たぶんそれはないんじゃないかな。ほら、和多野と布田の夫婦漫才を止める役だったり智下の後ろに付いていってるようにしか見えなかったし。それに私見ちゃったんだよね、夏休み中に智下と黒生と飛弾が駅の方から仲良く歩いてくるところ」

「え? 何その組み合わせ……って、ああ、それって修学旅行の班の陸上部がいないメンバーじゃない」

「そう言えばそうね。でも三人とも一人のイメージが強いのに、意外よね」

「そうね、飛弾君は三年生になってから秦石君と一緒にいる事が増えたけど、去年まではいつも一人だったし……」

「って、さっきの話だと飛弾って他にも女の人と仲良くしてるって事よね。一体何人と……」

「「「「う~ん……」」」」


 道場に通い出した小学生の頃から何かと一人の事が多かった真実。それが三年生になってから急に周囲に人が集まりだした。それも智樹以外は女の影ばかり。

 実際は修学旅行の班で一緒になった三人以外には道場の姉弟子や妹弟子くらいなものなのだが、それを知らないクラスメイトたちの目には乱れた性生活としか映っていないのであった。だって噂やスキャンダルが気になるお年頃だもん!

 それに、そこに智樹の姿がない事に内心ホッとしているという面もあった。クラスの、いや学年の人気を二分するイケメン男子である智樹に自分以外の女の影があるのは許せないのだ。なら修学旅行の班を決める際に声を掛けろよと言いたいところだが、他人を出し抜く程の勇気までは持ち合わせていなかったのと、いつも一人だった真実がすぐ傍にいる事で近付きたくないという自己保身が働いていたのだった。


「でもさ、じゃあブラック(・・・・)は何で呼ばれたの?」

「ちょっ! ブラックっていつの渾名(あだな)よ。それにまた黒生の事をそんな風に呼んでたらイジメだって問題になるわよ?」

「あ~、あったあった。他にもコウキとかミツテルとか(ヤミ)とか酷いのだとゴキブリとか……コウキってのはまだしも、男の呼び方とか今更ながらえげつない渾名を口にしてたわよね~」

「うわ、何その渾名。私だったら学校行きたくなくなるわ~」

「小学校の頃は問題になってたわね。それにゴキブリって渾名は黒生が体がひときわ小さかったのと黒が名前に入っているからって男子が付けたのよ。流石にあれは酷過ぎるって女子たちから大ブーイングが起きて、一時期、男子と女子の間に大きな溝が出来たのよね」


 数年前の事をしみじみと思い出して口にするのは第一小学校出身の女子たちだ。ちょうどその頃は市内の他の学校でもイジメが問題視されていたので、第一小学校でもこれ以上悪化させないようにと光輝へのイジメは積極的に対処された。


「でもさ、その直後にあの事があって誰とも喋らなくなったんだよね、黒生って」

「あの事?」

「いや、その事は結構胸糞な話だし黒生の家の問題だから、そう簡単には話せないわ」


 第一小学校出身の者たちが急に神妙な顔付きになり口を閉ざしたものだから、他校出身者はそれ以上追及出来る雰囲気ではないと諦めるのだった。





次話は明日のこの時間に投稿予定です。

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