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√真実 -002 どうだったの?



「ちょっと、華子! どういう事?」


 祐二の暴露話に目を剥いた綾乃が、華子の手を引いて真実たちから少しだけ離れて顔を寄せ、声を潜めて問い詰めようとする。


「どういうって、どうもこうも……あのエロ河童、ところ構わずチュウしてこようとするわ、何かにつけてワタシの裸を見ようとするわ、体を触ろうとしてくるわで夏休み中は大変だったんだから」


 プンスカと怒る華子だが、肝心な事を口にしていない事を綾乃が追及する。


「しちゃったの? その……キスを」

「最初はかなり強引な不意打ちだったのよ。思いっきりビンタしてやったわ! でも懲りずに二度三度と……」


 ムードもへったくりもありゃしないと鼻を鳴らす華子に、綾乃も光輝も言葉を失った。

 無理矢理唇を奪われてご立腹の筈が、何度もという事はその後も足繁く通っていた事を意味する。本当に怒っているのなら足が遠のく筈なのに、だ。でもそうでないところを見るに、本当に嫌がってはいないのであろう。

 一足先にファーストキスを体験した友人の話に興味深々な綾乃と、一気に大人の階段を上っていく友人の様を見てまるで違う世界に感じる光輝。性格の違いを如実に表していたが、王手を掛けているのは皮肉にも光輝である。


「で? どうだったの? 初めてだったんでしょ?」

「どうもこうも。乱雑になったあいつの部屋で、ムードもへったくれもないから只の罰ゲームみたいだったわよ。あいつ、松葉杖がなきゃ碌に動けないのを逆手にワタシの手を借りるフリをして……あんなのはチュウでもなんでもないわ!」


 ギンッと祐二を睨む華子の圧に圧されたのか、背中を向けていた祐二がブルリと震える。

 流石にムードもなく強引な不意打ちは無いわね、と聞いた綾乃もうんうんと頷いた。夢見る女の子としては相手が好きな人であってもムード作りは絶対必要なのだ。


「でも……布田君だものねぇ」

「はぁ~、そうなのよね。あいつにムードなんて求める方が間違ってたわ。そこいくとヒダ(真実)……も微妙ね。そこんとこどうなの? キラリ(光輝)

「ふぁっ!?」


 突然、綾乃に同意していた華子から話を振られて、慌てる光輝。キスという未知で大人な行為について、どこか他人事に感じていたのだ。


「もしかしてあんたたち、何も進展してないの?」

「ぁ、ぁぅ~」

「まあ、光輝と飛弾(真実)だから、ねぇ」

「まあ、それもそうね。キラリとヒダだし、ねぇ」

「ぁ、ぁぅ~」


 あったと言えばあったし、無かったと言えば無かったと言える。嘘など吐けない光輝は俯いて言葉を濁す事で精一杯だ。だが、今の光輝にはそれで充分だった。相手が勝手に判断してくれる。


「でも一昨日、デートはしてきたんでしょ? 良い雰囲気にはならなかったの?」

「あ~そうそう、ハタイシから聞いたわよ。丸一日デートだったって。で、どうだった? デートは」

「ぁぅ~」


 だが、二人の追及の手は止まない。何とか誤魔化そうとする光輝は顔を伏せるばかりで旗色が悪い。


「その……田蔵市までハイキングに行って、お弁当食べて……ごにょごにょ」

「へぇ、田蔵市にそんなハイキングの出来るところがあったのね。知らなかったわ」

「あ~、でも田蔵ってめっちゃ広いし、そんなところもあるかもね。でも、知られてないとこなら何しちゃっても人に見られずに済むよね……何かしたの?」

「ふぁっ!? こ、子連れの人がいたからそこでは(・・・・)何もしなかったよ!」

「……ふぅん」

「……そこでは、ねぇ」


 ジト目で光輝を見る二人に、いつも以上に小さくなる光輝。まるで怯えるウサギのようだ。


「じゃ、人がいなかったら何かするつもりだったって事か……」

「はぅ~」


 すっかり光輝の追及に躍起になって密かにほくそ笑んでいるいる華子。だが、元は華子の追及だった筈である。どうやら自分のエスケープゴートとして利用しようと、矛先を光輝へと向けているようだ。

 しかし、それに耐えられる程、光輝は強くはない。早々に顔を真っ赤にして俯いてしまった。それを見た綾乃が見兼ねて助け船を出す。


「華子、光輝を苛めるのはそのくらいにしてやって。光輝も飛弾も、そんな度胸はないんじゃないかな。それよりもあたしは華子が布田君とお風呂に入ったのかどうかって方が気になるんだけど」

「んぐっ! 折角誤魔化せそうだったのに!」


 ぐぬぬと睨み付けてくる華子に、そこんとこどうなのよと綾乃が迫る。この流れだと、華子と祐二は一緒に風呂に入ったのではと推測されるのだが、果たして……


「いや、あの家の人たち、ちょっとおかしいんだって。オバちゃんやバアちゃんまでニヤニヤして一緒に入れって言ってくるんだから!」

「それって結局、一緒にお風呂に入ったって事?」

「だってあいつがガキみたいに駄々を捏ねるから仕方なく…… でもちゃんとタオル巻いていたし、体を洗うのとシャワーを浴びるのを手伝ってあげただけなんだからね!」


 今度は華子が顔を真っ赤にする番だったが、その珍しい光景に俯いていた光輝を突っついて二人で覗き込む綾乃。随分と悪い顔をしている。


「でもまあ、そう簡単には裸なんて見せられないわよね。特に華子は。その大きな胸なんか曝け出したらあんな奴あっという間にケダモノになっちゃうだろうし」

「いや、見せなくてもケダモノになりかかってたわよ。思いっきり張り倒してやったわ。だって胸を触ってこようとするし、何だか股の間が盛り上がってたしごにょごにょ……」


 何かを思い出したのか、華子は更に顔を赤くさせて絞っていた声を更に細めた。


「てか、本当に無事だったの? まさかイくとこまでイってないでしょうね」

「そ、そんな訳ないでしょ! 家には他にも人がいたんだしっ! ほんの少し後ろから抱き付かれてタオルを外されそうになっただけ」


 最後の方は抑えていた声が更に小さくなって二人の耳にも届かなかったが、何かいけない事をしようとしていたのは伝わってきた。


「全く、カノジョは大事にするものだってのに、布田君ってば! そもそもこの歳になって二人でお風呂だなんてハードルの高い事を家族ぐるみでやってのける布田家恐るべし、だよね。ね、光輝」

「ふぁっ!? そ、そうだね。よく、ない、よね?」

「……どうしたの? 光輝。何だかしどろもどろになっちゃって。光輝にはちょっと刺激が強すぎた?」

「ぅ、ぅん……そうだね。よく、ない、んだよ、ね?」

「?」


 再び顔を真っ赤にして小さくなる光輝を見て首を傾げる綾乃。明らかに今の光輝は挙動不審だったが、カレシ持ちのくせにまだまだ幼さを残す光輝には華子の話を聞くにはまだ早すぎたのだと勝手に判断されていた。

 その実、真実と一緒に風呂に入ったのは二度! しかもその内の一回は二人とも裸になって(されて)、なのだ。綾乃や華子の想像の斜め上を行く光輝であった。


「ま、裸を見せなかったのは正解ね。そんなの見せてたら今後何をされるか分かったものじゃないし」

「当然でしょ! そんなお安い女じゃないわよ、ワタシは! ね、キラリ」

「ふぁっ!? そ、そうだね、かこちゃん()ちゃんとしてるもんね!」


 慌てる光輝の様子を見て目を細める綾乃。怪しいとまでは思わないものの、何か引っ掛かりを感じたようだ。だが、それが何なのかがまでは分からない。首を捻りつつも視線を華子に戻して追及を再開する。


「それで? 他には? ね、ね、布田君の部屋で二人きりにもなったんでしょ? 何もなかった訳ないよね。ね、ね!」

「か、勘弁してぇ~!!」


 いつもは祐二と一緒に騒ぐ側だった華子が攻撃を受ける側になる様は珍しく、こそこそ話をしているにも拘らずクラスメイトたちの注目を集めるのだった。





次話は明日のこの時間に投稿予定です。


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