第十話 『運命』
『少女』もおれが操縦することになったと知ったらしく、少し残念そうに言う。
「どうやら私は心臓の役になったようね」
「これって、交代することはできないのかな」
「たぶんできないと思うわ。きっとこういう運命なのよ。あなたがシロを操縦するほうが、世界を救えるってことなのかもしれないわね」
運命、か……。
今後の運命や宿命を考えると、気が重くなる。
それでも、やるしかない。
「あとは宇宙へ行くだけだな。でも、どうやって行けばいいんだろう」
その疑問に答えるように、長老の映像がシロの隣に映し出される。
「この舞台の中央に立つのだ。これは創世の父が降臨するときに用いられた一種の転送装置らしくてな、救世の子と救世の器なら、これを起動させられるはずだ」
「これまたずいぶんとご都合主義な……」
「まあいいじゃない。こっちとしては手間が省けて助かるわ」
あるいは『創世の父』とやらはこうした事態が起こるとわかっていたのかもしれない。
何もかもがそいつの手のひらで踊らされていると思うと、不気味な感じがした。
長老達が舞台の外に出た後、おれはシロを動かし、舞台の中央に立つ。自分の体を動かすようなかんじでシロの操作はできた。同調というより一体化といったほうがいいかもしれない。
「さてと、あとはこの転送装置を起動させればいいのか。シロと同じように、ソレラシキー粒子を使えばなんとかなるのかな」
「なんとかなるでしょうし、なんとかなってもらわないと困るわ」
「ほんと、ソレラシキー粒子ってのは便利なもんだね」
「意志を持てばたいていのことはできるってことよ。それじゃあ行きましょうか。ぐずぐずしていると手遅れになってしまうかもしれないし」
空の果てに広がる宇宙を目指すように『少女』は顔を上げる。
おれも顔を上げ、この空の先にある宇宙と、待ち構えている終末の光を思い浮かべた。
「いくよ」
「ええ」
おれ達は同時にソレラシキー粒子を発生させる。
舞台全体が光に包まれ、シロはゆっくりと浮かび上がった。
「あなたに聞きたいことがあるんだけど」
「なに?」
「終末の光を破壊して、あなたのお友達を連れ戻すことができても、元の世界へ戻れなかったら、あなたはどうするの?」
「その時は……その時で考えるよ。まあ、元の世界へ戻れるまで世界を救うしかないんじゃないかな。おれの望みは、あいつや君と一緒に元の世界へ戻ることだから」
「そんなに元の世界が好きだったの?」
「うーん、どうだろう。なにしろほとんど思い出せないから、わからないな。でも、元の世界へ戻れば君がいれてくれたコーヒーをまた飲むことができる。それだけでも戻る価値は十分にあると、おれは思うよ」
そう、と言って『少女』はおれの手を握る。
「行きましょか。この世界を救うために。そして、私達の世界へ戻るために」
「ああ。行こう、一緒に」
舞台全体から一直線に空へ向かって光の柱が立ち上る。
その光に包まれた瞬間、おれは体の感覚を失い、意識が途切れた。
足元に青く輝く惑星の姿を見た時、おれは宇宙にいることを知った。
無限に広がる暗黒の世界に輝く星々の光を見た時、おれは宇宙にいることを実感した。
前もってわかっていたこととはいえ、いざそれが現実のものとなると、やはり衝撃は大きい。
なんてことだ。
別の世界とはいえ、おれは今、宇宙にいるんだ。
まったく、とんでもないところまで、来てしまったな……。
しかし感慨にふけっている場合じゃない。
おれ達には、やらなければならないことがあるのだから。
「とりあえず、終末の光を探さないと」
「大丈夫よ。もう見つけたから」
『少女』は上を指さす。おれは顔を上げ、頭上にあるものを見た。
「なるほど。あれか」
そこには長老が見せてくれた映像と同じ形の巨大な建造物が見えた。
雪の結晶を思わせる六花のような形の衛星兵器、終末の光だ。
円形の発射口は青い惑星にしっかりと狙いを定めている。まわりには終末の光を取り囲むようにして、幾重にも重なった光の輪が見えた。
「あの光の輪は、なんだろう?」
すると目の前に光の輪を拡大した映像が表示された。どうやら思考や感覚もシロと一体化しているらしい。
光の輪は、無数の光の粒子が集まってつくられたものだった。
「たぶんあれはソレラシキー粒子でしょうね。長老が言っていた通り、終末の光はソレラシキー粒子も動力源として起動しているのよ」
光の輪のすぐ近くには、それに向けて光の粒子を送っている人工衛星のような装置がいくつも見えた。よく見るとその装置に向かって、うっすらとした光の帯が青い惑星から立ち上っている。地上にいる新世界の連中が終末の光を起動させるため、ソレラシキー粒子を送り込んでいるのだろうか。
いつ起動するかわからない状況に焦りを感じる。
早いところぶっ壊してしまおうと終末の光に向かって飛んだ時、どこからともなく声が聞こえてきた。
「お前に……、お前達に、あの光は、消させない……」
それは間違いなく『親友』の声だった。
その直後、頭上から赤く輝く光線がこちらに向かって放たれる。
おれはとっさに後ろへ下がり、間一髪のところで攻撃をかわした。
「あの光はおれ達の、最後の希望なんだ」
再び声が聞こえた。
やはり来るか。まあ、探す手間が省けただけ良しとしよう。
やがて、終末の光の背後から黒き救世の器と思われる兵器が現れる。
その姿を見ておれは肝を潰した。長老の話からシロと同じような人型兵器であるとは想像していたし、それなりに改造も施されているだろうと予想もしていた。しかし実物はそれ以上のものだった。
シロとよく似た黒い人型兵器には、大量の武装や推進装置がこれでもかと装備されていた。背中からは増設された何本ものアームが千手観音像のごとく伸び、下半身には二本の巨大な燃料タンクが両脚のようにくっついている。肩や腰、胴体には光線の発射口らしきものがびっしりと見えた。
その姿は『ぼくがかんがえたさいきょうのロボット』をそのまま実体化したようなものだった。
魔改造のお手本、といってもいい。
「ふっ……どうやら、相手にとって不足はないようね!」
どうやら『少女』は興奮に胸をときめかせているらしい。
こっちは明らかに準備不足だ。こりゃまともに戦っても勝ち目はないな。




