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主題なき春のラプソディ  作者: 青山 樹
第四章 『光の先へ』
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第七話 『ほな自分もそろそろ目覚めんとな』

『少女』の殺気にまったく動じることなく、長老は創世の書を読み進める。


『とにかく、この三人が世界を救ってくれるはずや。ここぞという時に何かしらの力に目覚めてうまいことまとめてくれるやろ』


 そうご都合主義的に物事が運ぶわけないだろうが。さっさと具体的な方法を教えろ。


『まあそんなかんじで世界は救われるんや』


「待て待て待て。待て待て待て待て待てぇっ!」


「どうしたのだ?」


「どうしたのだ、じゃねえよ! そっちがどうした! まさかとは思うが、今読んだところが世界を救う方法だっていうんじゃねえだろうな!」


「その通りだ。『ここぞという時』に、『何かしらの力』に目覚め、『うまいこと』まとめてくれる。この記述に関しては特に解釈の仕方をめぐって様々な意見があってな。君は何かつかめたか?」


「つかむも何も、つかみどころがねえだろ……」


 まったく、なんだってんだ、この創世の書は。

 酒飲みながら深夜テンションで書き散らしたって、もっとまともなものが書けるだろうに。


「とりあえず、最後まで聞きましょう。もしかしたら活路が見いだせるかもしれないわ」


「だといいけどなぁ」


『せやせや、ナントカのアレについて書くん忘れとったわ』


 もはや放送事故のレベルだろ、これ。

 この世界の秩序ははこんないいかげんなもんに支配されていたのかと思うと悪寒が走る。


『救世の子がうまいこと世界を救った時、ナントカのアレは救世の子によって導き出されるはずや。それをもって救世の子はこの世界での役割を果たし、元の世界へ帰っていく。言い換えれば世界を救ってナントカのアレを導き出すことができんかったら、救世の子は元の世界へは戻られへんっちゅうこっちゃな。ええか、もし救世の子がこれを読んどったら、ちゃんとメモしとかなあかんで』


 この石柱そのものがメモみたいなもんだろ。おちょくってんのか、これ書いた奴は。


『最後に、救世の子らへ言うとくことがある。たぶん自分らはこの理不尽で不条理で無茶苦茶な状況に戸惑っとるやろうし、腹も立てとるやろ。世界を救えなんて言われて途方に暮れとることやろう。せやけどな、人生なんてそんなもん、世の中なんてそんなもんや。今の自分らに合わせて世の中が動いてくれるわけやない。自分らが世の中に合わせて動かなあかん。変わらなあかんのや。それをな、成長するっていうんや。せやからどんな無理難題にぶち当たってもあきらめたらあかん。あきらめん限り可能性はなくならんし、可能性があるからこそ人は成長できるんや。大丈夫、心配せんでええ。自分らは救世の子や。本物の救世主になれる可能性は十分ある。ささやかやけど、そのための力もここに遺しといたるわ。あとは自分らの意志で、自分らの力でなんとかしいや』


「……ったく、結局そうなるのかよ」


 とは言ったものの、おれは不思議と安心感を感じていた。

 創世の書のこの部分にだけは、力を与えてくれたような気がしたからだ。


『最後に、これから始まるやろう多くの戦いについて、道標となる言葉を書いとく』


 いよいよ最後か。気を引き締めて聞かないとな。


『人生は、諦めるんも、勇気やで?』


「うるせええええええええええええええええええええええっ!」


 もうね、叫ぶしかなかった。

 心に渦巻くどろどろしたものを全部根こそぎぶちまけるように。

 腹の底から声を出し、喉が破れそうなほどに絶叫した。

 この世界に。

 創世の書に。

 自分達の運命に。

 持てる怒りのすべてをぶつけた。


「どないせぇっちゅうんじゃボケええええええっ!」


 おれの中に眠る関西の血が目覚めたのか、ほとんど無意識にそう叫んだ。

 その時だ。

 胸の奥が燃え盛るように熱くなり、黄金色に輝く光の粒子が体中からあふれ出した。


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