表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
主題なき春のラプソディ  作者: 青山 樹
第四章 『光の先へ』
61/71

第六話 『まあ大方予想できとったけどな』

 ここまで事を大きくしておいて、これはあんまりにもあんまりだろ。

 おれとしては適切にフラストレーションを爆発させたのだが、近くに小さな子どもがいるのを忘れていた。お孫さんはビクッと体を震わし、おびえた目をこちらに向ける。


「大きな声を出さないで。この子が怖がるじゃない」


 『少女』はよしよしとお孫さんの頭をなでる。


「ああ、ごめんごめん。なんかもう、いろいろぐちゃぐちゃになって、つい……」


「しかしさすがは救世の子だ。この言葉が失われし神聖言語『カンサ=イ=ベン』であると瞬時に判断するとは」


「そうね。見事だったわ。あなたこそ真の救世主にふさわしい」


「やめて? そういう自信の持たせ方はよくないよ」


「ちなみにこの神聖言語は、はるか西方の地より伝わったとされているのだ」


「そりゃな、関西弁だからな。ていうか、今でも現役バリバリだっての」


 なんかもう、すっかりやる気が失せてしまった。

 しかし一通り聞いておかないと、物事は先に進まないのだろう。


「とりあえず、続きを頼む」


 うむ、と長老はうなずいた。


『そらもうえらいこっちゃで。世界のあちこちで戦いが起こってな、そのまま世界大戦に突入してまうかもしれへんのや。挙句の果てには人類の半分くらいを滅ぼせるようなどえらい兵器が出てきたりしてな、まさに世界の終わりが目の前まで来てまうねん』


 悪いところは的確に言い当てやがって。なおのことタチが悪いな。


『せやけど希望を捨てたらあかん。この世界が滅びる前にこことはちがう別の世界、まあ『どこだかの世界』から救世の子ってのがぼちぼちやって来てな、うまいことこの世界を救ってくれるやろ』


「ちょっと待て! 今、さらっとすごいこと言わなかったか? 別の世界って、どういうことだ?」


「その言葉通りだ。信じがたいことだが、創世の書の記述が正しければ、君達救世の子は別世界の住人ということになるな」


 ぶっれそうなくらいの脱力感を感じつつも、おれは安堵の息を吐いた。


 ああ、よかった……。

 この狂った世界は、おれの記憶から消えた日常のあった世界とは別物だったんだ。


「……ん? でもおかしくないか。たしかセンター街もニュータウンも、おれがいた世界にはあったのと同じものだったぞ」


 おれの疑問に答えるように『少女』が言う。


「たぶんここは、パラレルワールドの一つなんじゃないかしら。私やあなた、あなたのお友達は気づかないうちにこの世界へやって来たのよ」


「パラレルワールドって、たしかSFとかでたまに出てくる、元の世界にそっくりな別世界のこと?」


「ええ。元の世界とそっくりだから、そっくりな街もあるし、そっくりな人間もいる。私やあなたとそっくりな人間も、もしかしたらいるかもしれないわ。そして、今の私達と同じようにどこかのパラレルワールドへ行って、世界の危機を救おうとしているのかもしれない」


 もしそうだとしたら、なかなか怖い話でもあるな。自分そっくりの人間とか、あまり見たくはない。

 ていうか、どうしてそんなことが起こったんだ。


「うーん……まあ、考えても仕方ないか。とりあえず続きを読んでもらおう。もしかしたら、元の世界へ戻れる方法がわかるかもしれない」


 長老は再び創世の書を読んでいく。


『その救世の子やけどな、まあけったいな連中や。一人目は一途にネガティブなうえ中二病をこじらせとるやつや』


 ……これはたぶん『親友』のことだろうな。


『で、二人目は何考えとんのかようわからん貧乳』


 創世の書よ、今に限ってそれは間違いだ。

 おれは『少女』が考えていることがよくわかる。

 かつて体験したことのない強烈な殺気を『少女』から感じているからな。


『ほんで三人目はなんもでけへんしょーもないやっちゃ。この創世の書の内容を聞いて、なんで関西弁なんだぁ、とかありきたりでクソつまらんツッコミしかでけへんボンクラや』


「なんでおれだけ的確に責められるんだ! おい、じいさん、これ本当にそう書いてあるの? あんたの個人的な感想じゃないだろうな」


「信じられないかもしれないが、すべて創世の書に記されていることだ。私も救世の子についての記述はこれまで謎に感じていたが……、君のおかげで得心したよ」


「やめろ。優しいほほ笑みをおれに向けるな」


「とにかく、続きを読んでちょうだい」


 ぞっとするほどに冷たい声で彼『少女』は言った。


「何もかもかたづいたら、この忌々しいガラクタをすべて粉砕してやるわ」


 ……どうやら『少女』は本気らしい。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ