第四話 『タンポポの花言葉ってなんやったっけ』
中二病的な名前を付けられた兵器について、委員長は大変真面目な口調で説明する。
「最大出力での攻撃を行うべく起動しているようだ。もし攻撃が行われれば、世界各地に終末の光の光線が降り注ぎ、先ほど言ったような惨禍が現実のものとなるだろう」
「どうして新世界の連中は、そんなことをするんだ?」
「彼らが描くシナリオはだいたいわかっている。ナントカのアレをめぐる一連の混乱に乗じて彼らは世界各地で戦乱を巻き起こし、世界大戦さながらの状況がつくられた。しかもさきに行われた委員会と結社の戦いの結果、それがより決定的なものとなってしまった。本来なら我々がその戦いの中で彼らをおびき出して排除する予定だったのだが、決行の直前に想定外の事態が起こったのだ」
「何があったんだ?」
「新世界が我々よりも先に、救世の子と接触を持ったことだ」
「それって、まさか……、あいつのことか?」
「そうよ。私があなたを助けるために彼と戦った後、教団は彼が救世の子であることを突き止めたの。どうやら私が教団と接触する前に、彼は新世界と接触し、その存在を隠されていたみたいね」
「じゃあ、あいつはその新世界ってやつらの仲間になってるのか?」
「仲間かどうかの確証はないが、彼が新世界側に立っていることは確かだ。新世界は救世の子を手に入れたからこそ、かねてから計画していた秩序の打倒と新しい世界の創造へ向けて動いたのだろう。世界全体に戦火を燃え上がらせ、終末の光を起動させて人類に壊滅的な打撃を与え、世界存亡の危機を生み出したところで救世の子を使ってナントカのアレを導き出し、彼らがこれからの世界を導いていく正当性を確立する……。いわば彼らは、創世の書にかわる新たな神話をつくり、それを背景として自分達を中心とした世界をつくろうとしているのだ」
「このままだと彼は新しい世界の救世主、あるいは支配者になるかもしれないわ」
ここまでおかしな方向に事態が進むと、もはや笑うこともできなかった。
そうかぁ……。
新しい世界の救世主、あるいは支配者になっちゃうのか。
もういっそのこと、神様にでもなってくれればいいのに。
それならおれもいろいろとあきらめがつく。
なんてことを考えてる場合じゃないな。
おれにはやりたいことが、やらなければならないことがあるのだから。
「あいつを助けるにはどうすればいいんだ」
「助けるとは、彼を新世界からこちら側に引き込むということかね」
「ちがう。おれ達の日常に連れ戻すんだ。新世界だろうが終末の光だろうが知ったことか。邪魔する奴は全部ぶっ潰してやる。そしてあいつを連れ戻して、このわけのわからん非日常からもとの日常へ帰るんだ」
堂々と、はっきりと、おれは宣言する。
しかし委員長は何も答えず、立体映像も消えてしまった。
「おい、ちょっと待て。まだ話しは終わってないぞ」
「そう。まだ話は終わっていない。むしろここからが話の本題なのだ」
老人の声が聞えた。
振り向くと、車いすに乗ってこちらに近づいてくる老人と、それを押している指導者の姿が見えた。
老人は髪もひげもまっ白で、ひげは首元まで伸びている。神聖な印象を与える白い衣をまとい、頭には七色に輝くリング状の装置をつけていた。その姿は、小さい頃に漠然と思い描いた神様の姿を思い出させた。
老人はおれ達の前に来ると、おれと『少女』の顔を交互に眺め、苦しげに咳き込んだ。
「おい、大丈夫か?」
「ああ……。気にすることはない。いつ死んでもおかしくない年なのだから。とりあえず、自己紹介をしておこうか。私が教団の最高権威者である長老だ。また、委員会を統率する委員長であり、結社をまとめる指導者でもある。ちなみにこの子は、私の孫だ」
長老は指導者として利用されていた子どもの頭をなでる。お孫さんは照れくさそうに、顔を少し赤くした。
「この子のことで、君に礼を言わせてほしい。飛行戦艦が墜落していった時、君はこの子を守ろうとしてくれたそうだな。ありがとう。君の思いやりと行動に感謝する」
「いいよ、お礼なんて。当然のことをしたまでだし、ついでに言うとおれは他に何もできなかったし……。そうだ。なんでおれ達は助かったんだ?」
「彼女がうまく対処してくれたのさ。ソレラシキー粒子を使い、この子と君を連れて飛行戦艦から脱出して、このはじまりの園まで連れてきたのだよ」
「そういうことだったのか。ありがとう。なんか、君には助けられてばかりで申し訳ないな」
「救世の子として……、いえ、人として当然のことをしたまでよ」
そう言う『少女』の顔には、どこか誇らしげな表情が浮かんでいるように見えた。
「さあ、お前も彼にあらためてお礼を言いなさい」
長老に言われ、お孫さんがおれの前にやって来る。
「アリガトウ、ゴザイマス……」
やはり外国人であるらしく、カタコト口調だった。
お孫さんはポケットからタンポポでつくった小さな指輪を取り出し、おれのほうに差し出す。
「もしかして、おれにくれるの?」
お孫さんは小さくうなずいた。
「ありがとう。大切にするよ」
おれはタンポポの指輪を受け取り、上着のポケットに入れる。
お孫さんはぺこりと頭を下げてお辞儀をすると、長老のそばへ戻った。




