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主題なき春のラプソディ  作者: 青山 樹
第四章 『光の先へ』
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~黄昏~

 気がついた時、おれは中学校の校門の前に立っていた。

 すっかり体になじんだ制服を着て、使い古された通学鞄を肩にかけている。


 東の空は夕闇に染まり、西の空には名残惜し気にひっそりと沈んでいく夕陽が見えた。

 時折吹く風は冷たく、校門前に並ぶ街路樹は全ての葉を落とした枝を寂しそうにさらしている。


 きっと、あの日のことだろうな。


 去年の十二月の半ば頃、おれと『親友』の三者面談があった日だ。

 先に三者面談を終えたおれは、『親友』の面談が終わるのをここで待っていたんだ。


 この時のおれは志望校にぎりぎり合格できるレベルに達していた。このまま努力を続ければ合格はできると担任の先生は言ってくれた。ただし、高校に進学したあとも努力を続けなければ校内で平均的な成績をとることは難しいとも言われた。高校のレベルを一つ下げたほうが余裕のある高校生活を送れるし、推薦も受けやすくなるらしい。

 そうした先生の意見に対し、親父はこう言った。


「先生、努力せなあかんのは、どこの学校行っても一緒ですやんか」


 ある程度追い詰められなければ努力しないというおれの性格を親父は熟知し、ある意味で信頼していたのだろう。なにはともあれ、おれは目標に一歩近づいた。


 同時に他の道は全て閉ざされたことにもなる。


 おれは暗さが深みを増していく空を見上げ、白い息を吐いた。

 こちらへ近づいてくる足音が聞こえる。校舎から出てきた『親友』の姿が見えた。

 その顔を一目見た時、おれは面談でどのような結論が出されたのか理解した。


 長い付き合いだから、言葉を交わさなくてもそれくらいはわかる。

 わかってしまう。


「悪い、待たせたな。帰ろうか」


 いつもより少し穏やかな表情を浮かべながら、落ち着いた声で『親友』は言った。

 おれはうなずき、会話らしい会話もせず、並んで帰り道を歩き出した。


 三者面談でどんなやりとりがあったのか、それは今でもわからない。

 ただ、おれが知っていたことは、『親友』のレベルが第一志望の合格ラインに届いていたこと、第一志望に進学した場合の校内成績は平均よりやや下になるだろうこと、そのレベルでは推薦は難しく『親友』の両親が納得しないということだった。

 この日が来るまで、『親友』は不安そうにそんな話をしていたのだ。

 『親友』の両親はなぜか推薦で進学先を決めることにこだわっていて、そのレベルに達しないのであれば合格は確実でも受験はさせないと言われていたらしい。

 おそらくこの時の面談では、そういうことが話し合われたのだろう。


 いつの間にか言葉をかわすこともなくなり、おれ達は黙々と歩いていた。

 おれには、言わなければならないことがあるはずだった。

 中三になってから、おれは『親友』と一緒に受験勉強をがんばってきた。

 おれは『親友』がどんなにがんばっていたのかを知っている。


 ずっと一緒にいたのだから。


 なのに、おれはこの時、何も言えなかった。


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