第十五話 『まあなんとかなるやろ』
目の奥にソレラシキ―粒子の光の残滓を感じつつ、おれは激闘(?)の跡を見る。
「あいつは、どうなったんだ?」
「パワードフレームの機能を一時的に停止させた後、外へ放り出したわ。彼の仲間が回収するだろうから、心配しなくても大丈夫よ」
「そっか……。まあ、とにかくこれで一安心」
させねえよ、とでもいうように再び爆発音が轟き、ブリッジは大きく揺れた。
「まずいわね。敵の援軍がもう到着したみたい」
「そんな! 反撃はできないのか? これも飛行戦艦なんだろ?」
「残念だけど武器弾薬の類は切れているわ。なにしろ実践投入前のものだったし、委員会の支部を破壊する時に装備されていた弾薬は景気よく全部使い切ったから」
「もっと先のことも考えて行動して!」
と言っている間にも攻撃は続き、やがて艦は推進力を失ったように減速して、少しずつ落下し始めた。
『少女』はなんらかの緊急措置をとろうとしているらしく、ブリッジ内にあるコンピューターを操作している。しかしすぐに首を横に振った。
「だめね。エンジンをやられてるわ。このままだと、じきに墜落する」
「えっとぉ……。それはつまり、どうすればいいってこと?」
「どうしようもないってこと。まあ、なるようになるでしょ」
そう言う『少女』の顔には恐怖など一切なく、むしろ余裕すら浮かんでいた。
それを見た時、おれは頼もしさを通り越して、恐怖を感じた。
『少女』も、『親友』も、この世界の何もかもが、狂っている。
いよいよその時が来たらしく、艦は前へ大きく傾き始め、地面へ突っ込むように落下し始めた。
指導者の意識が乗り移っていた子どもはさらに大きな声を上げて泣きはじめる。
たぶん今がどういう状況なのかは理解できていないのだろう。
ただ怖くて、心細くて、泣いているだけなんだ。
おれも泣きたかった。
このくそったれな世界に向かって大声で泣きわめき、怒鳴り散らし、叫びたかった。
でも今は、そんなことをしている場合じゃない。
おれは泣きわめいている子どもをしっかりと抱きしめる。
こんなことをしたって何かが変わるわけじゃないだろう。そんなことはわかってる。
でも、だからといって目の前で泣いている子どもを見捨てて自暴自棄になるわけにはいかない。
おれにだって十五年ほど生きてきたっていうプライドはあるんだ。年上らしい態度くらい、とってみせるさ。
……いや、そんな立派な動機じゃないかもしれないな。
怖がっているのも、泣きたいのも、自分一人じゃないってことを、自分に言い聞かせたいだけなのかもしれない。
重力だか引力だかが、この艦もろともおれ達を地上へ引きずり込んでいく。
意識が途切れる寸前におれが感じたのは、決して逃れることのできない圧倒的な力のうねりだった。




