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主題なき春のラプソディ  作者: 青山 樹
第三章 『未知の力』
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第十四話 『不浄なるものよ! あるべき場所へ還れ!(キリッ!)』

「また、お前なのか……」


 そこに見えたのは『親友』の姿だった。もはや驚くのもアホらしい。

 今回の『親友』は機動装甲ではなく、人間の三倍ほどはあるロボットのフレームを装備していた。『親友』はその制御装置みたいな感じで、フレームの胴体部分に手足を大の字に広げて固定されている。

 そして、いつの間に出せるようになったのか……。

 彼は赤く輝くソレラシキー粒子を発散させていた。


 ああ、なんてことだ。

 少し見ない間に、またずいぶんとおかしな姿になって……。


 涙ぐむおれの隣で、『少女』は楽しげに声をはずませる。


「あれは結社が極秘裏に開発していたパワードフレームよ。ソレラシキー粒子を動力源や指揮系統とすることで、機動装甲をはるかに超える出力と機動性を実現させた最新鋭の装備……。素晴らしいわ。私も使いたい」


「それはいいから早くあいつをなんとかしないと!」


 『親友』は巨大な機械の拳をブリッジのガラスに何度も叩きつけ、侵入しようとしている。

 ここからでもはっきりわかるほどに、その顔には鬼気迫る形相が浮かんでいた。

 そんな『親友』を指導者はぼんやりとした顔で眺めている。

 いてもたってもいられなくなり、おれは指導者の体をつかみ、叫ぶように言った。


「あんたもこの状況をなんとかしてくれよ! ここの責任者だろうが!」


 すると指導者は目を丸く見開き、体をびくりと震わせ、次の瞬間には顔をくしゃくしゃにして大声を上げて泣き始めた。まるで小さな子どものように。いや、目の前にいるのはたしかに小さな子どもなんだけど、意識というか中身というか、それは別もののはずだ。


「おいこら、この非常時にふざけるな!」


「よしなさい。すでに指導者の意識はその子から離れているわ。状況の悪化を受けて、早々に撤退したようね」


「そんな……。うそだろ、おい。なんなんだよ、委員長といい指導者といい、どうして責任のある連中は真っ先に逃げ出すんだ。なんで後始末を全部人に押し付けるんだ」


「責任をとる者がえらくなるのではなく、責任を人にとらせる者がえらくなれる。世の中なんてそういうものなのよ」


「……クソみてぇな世の中だ。おれもそんな世の中を、ぶっ壊したくなってきたよ」


 そうこうしている間にブリッジのガラスはぶち破られ、猛烈な気流と共にガラスの破片が大量に飛び込んでくる。


「ちょ! ヤバい!」


 おれは破片から子どもを守ろうと、とっさに子どもの前に立った。

 それと同時に青く輝くソレラシキー粒子がおれ達を包み込み、ガラスの破片を周囲に弾き飛ばす。

 助かった、と思ったのも束の間。

 『親友』の叫び声がブリッジに響き渡った。


「お前は! お前だけはぁっ!」


 危ないクスリでもきめてるのではと思えるほどに、『親友』の目は血走っていた。

 そして言うまでもなく、その危ない目玉はおれに向けられている。


「お前は、おれが、この手で、殺さなければならないんだっ!」


「だからなんでそうなる? おれがお前に何したっていうんだ!」


「お前はおれに何もしちゃいない! おれだって、お前を殺したくなんかないんだ!」


 支離滅裂だ。そんなら殺さなきゃいいだろ。

 なんて言っても今の『親友』は理解してくれないだろうな。


「だけどおれは、もう、お前を殺さなければならない! この戦いを終わらせるためにも、これ以上血を流さないためにも……。そして、あいつらのためにも!」


 たぶん『親友』には『親友』なりのドラマがあったのだろう。

 おれがいろいろと巻き込まれている間に、知られざる苦悩や葛藤や戦いがあったのかもしれない。

 だが申し訳ないことに、おれはそこらへんの事情を一切知らないのだ。

 

 すまない友よ。共感しようにも、ちょっと無理だ。

 そもそもあいつらってどこの誰だよ。


 『親友』は雄叫びを上げながら赤く輝くソレラシキー粒子をまとい、ブリッジへ侵入しようとしていた。それを阻むように『少女』は『親友』へ向けて右手を突き出し、ソレラシキー粒子をぶつけている。

 赤と青の粒子が混じり合い、二人の間には紫色に輝く光の渦が発生した。


「なんとかなりそう?」


「ええ。さっきも言った通り、パワードフレームの操作はソレラシキー粒子によっておこなわれているの。だから私の粒子をぶつけて指揮系統を奪い取れば、撃退できるわ」


 どうやら『少女』のほうが優勢らしく、『親友』の動きはにぶりはじめ、光の渦もだんだんと青色に近づいてきた。それでも『親友』は必死の抵抗を続ける。


「おれは、おれはもう、負けられないんだ! この世界のためにも、あいつらのためにも! おれは……、おれはぁっ!」


 だから、あいつらって誰だよ。お前は何を背負って戦ってるんだ。

 なんてつっこむのが失礼なほどに、『親友』はシリアスの極みに達していた。

 それはまるで、最終決戦に際し全ての力を使い果たしてでも勝利せんとする主人公のごとき姿だった。


 一方で『少女』はというと、どことなく退屈そうな目を向けていた。

 すでに『少女』のソレラシキー粒子はパワードフレームの指揮系統を侵食しているらしく、もはや勝利は時間の問題だった。

 二人の力の差は、残酷すぎるほどに明らかだった。


「はぁ……」


 『少女』の口から退屈さと面倒臭さの象徴みたいなため息がもれる。


「待って。ため息は、この局面でため息はよくないよ!」


「チッ」


「舌打ちはもっとよくない!」


「さて、そろそろだろうし、ここらでお引き取り願おうかしら」


 『少女』は両手を前に突き出し、必殺技を決めるように声を張り上げた。


「不浄なるものよ! あるべき場所へ還れ!」


 次の瞬間、『少女』の両手から怒濤の勢いでソレラシキー粒子があふれ出し、『親友』を押し潰す。


「ぐぅぅうおおおおおおおおおおおおおおおおおおあああああああああああああああああああっっ!!」


 『親友』の姿はその絶叫と共に、光の彼方へとかき消された。

 なんというか、成仏していく悪霊のごとき最後である。

 

 ていうか、不浄なるものって。

 そいつ、おれの十年来の親友なんですけど……。


 なにはともあれ戦いは終わったらしく『親友』の姿は光と共に消えていた。


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